水産研究本部

試験研究は今 No.42「バイオテクノロジーによるアワビの品種改良について」(1990年8月3日)

試験研究は今 No.42「バイオテクノロジーによるアワビの品種改良について」(1990年8月3日)

Q&A? バイオテクノロジーによるアワビの品種改良について教えてください。

アワビの人工種苗
  エゾアワビは地先沿岸漁業の重要な水産資源の一つですが、その漁獲量は昭和45年を境に直線的に減少を続け、かっては500トンを超えていた水揚げ量も今では100トンを切るまでに落ち込んでいます。

  このエゾアワビの資源量を回復させるため、道では、資源管理の徹底、生息場所や餌料環境の改善、稚貝沈着場所の造成を図ってきたほか、人工種苗の生産放流が行われてきています。

  こうした努力の結果、地域によっては漁獲物に占める人工種苗の割合が6~8割に達するところも見られるようになってきましたが、まだ資源量が顕著に増加するには至っていません。
 
  そこで、これまでの方法と並行して、生物としてのエゾアワビの性質に手を加え、生残率を向上させ、大型化を図ろうとしているのが、栽培漁業総合センターで行っているバイオテクノロジーによるエゾアワビの品種改良です。

  バイオテクノロジーとは、「生命工学」とか「生命技術」と訳されおり、生物の機能を効果的に活用して、産業的価値を高めようとする技術のことをいいますが、栽培漁業総合センターではエゾアワビを対象に、かけ合わせ技術の開発研究や染色体操作技術の予備試験を始めたところです。
  エゾアワビは暖海性の生き物で、その生息温度は5~24度位ですから冬の低水温期には活力が低下し、成長が滞ったり時には死亡することもあります。加えて性成熟による成長の停滞が漁獲サイズになるまでの期間を長くしています。このため寒さに強く、成長の速い品種の改良が望まれているのです。
 
  このうち耐寒性については、これまでの遺伝子(生物の特性を決める因子)の解析から、耐寒性の遺伝子がある品種が低水温で高い割合で生き残ることがわかっています。こうした遺伝子を持つと思われる高緯度の水域に生息する外国産の品種をエゾアワビとかけ合わせ、寒さに強い品種をつくり出す研究を進めています。

  また、成長を速めるには、大型の種類とかけ合わせたり、染色体を倍数化させる方法があります。東北地方に生息しているマダカアワビは、殻長20センチメートル程度まで成長する国内では最も大きくなる種類ですが、これとエゾアワビをかけ合わせることにより北海道の海でも成育できる大型のアワビをつくり出せる可能性があります。

  また、エゾアワビの卵に冷却等の刺激を加えて3倍体をつくる倍数化の方法があります。これによってつくり出される3倍体のエゾアワビ(通常は2倍体)は生殖腺が発達せず、性成熟のためのエネルギーが成長に活用されますので、成長の停滞は起こらず養殖用の種苗に適しているものと考えられます。

  いずれにしても農・畜産業におけるバイオテクノロジーによる品種改良の飛躍的な発展の陰には幾百年にもおよぶ育種の歴史があります。その点、水産業におけるバイテクの歴史は浅く、育種の基礎となる知見が不足しておりますので、今後、魚貝類の遺伝学的特性の解明などの研究が益々必要になってくるものと考えられます。
(栽培漁業総合センター)

トピックス

中央水試試験調査船「おやしお丸」が竣工される

  元年11月から室蘭市楢崎造船(株)で建造中の中央水試所属の試験調査船「おやしお丸」が8月30日に竣工されました。
 
  新「おやしお丸」は総トン数178トン、推進機関出力1,100馬力を備え、航海計器を始め、最新の調査機器を装備しており試験調査船としては最高の水準をもった船です。
 
  現在、道の試験調査船としては、北辰丸(釧路水試)、北洋丸(稚内水試)、金星丸(函館水試)が就航していますが、このたびの「おやしお丸」の竣工により水試の調査機能が一段と充実し、漁業者の要望や期待に応えていくことができるものと考えています。

「北海道周辺海域の資源」シンポジウムの開催について

  平成2年9月7日(金曜日)午前10時から札幌市第2水産ビル8階大会議室で指導連の主催の「北海道周辺海域の資源」シンポジウムが開催されます。

  このシンポジウムは「北海道日本海海域における機根資源の動向と磯焼け対策」をテーマに水試職員からは「ウニ、アワビ等の資源動向」、「海藻類の資源動向」についての基調講演や「日本海海域の海洋構造の変動」、「磯焼げ漁場有効河用技術開発調査」、「ウニへのコンブ給餌の省力化」と題した研究発表があるほか、ビデオ上映や漁業者カらの現地報告を交えて総合討議、意見交換を行う予定です。ふるってご参加ください。