水産研究本部

試験研究は今 No.47「 ホッキ、バカガイ漁場のカシパンの生態と貝類に与える影響について」(1990年10月19日)

試験研究は今 No.47「 ホッキ、バカガイ漁場のカシパンの生態と貝類に与える影響について」(1990年10月19日)

Q&A? ホッキガイやエゾバカガイなどの漁場にカシパンが高い密度で生息しています。このカシパンの生態と貝類に対する影響などをお知らせください

  カシパンは、その形が菓子のカシパンに似ていることからその名がつけられ、外国では「サンド・ダラー(砂浜の1ドル銀貨)」などと言われるそうですが、ホッキガイなどの有用貝類と生息場所が重なるため以前から問題視されてきました。

  終戦後間もない頃、北海道区水産研究所の木下虎一郎博士が「ハスノハカシパンがホッキガイの棲息場を侵食している」として報告していますが、最近では昭和59年に石狩漁協を調査し、また、昭和60年には専技室が桧山管内の瀬棚町前浜で調査を行っています。

  カシパンの生息密度が高く、いつも問題になるところは、主に日本海の石狩湾から南部海域の松前町を経て津軽海峡の上磯町あたりまでの地帯で、場所によって違いますが、その生息水深帯は概ね4~25メートルの範囲に多く、特に水深7~18メートル程度のところに高い密度が見られるようです。写真は桧山管内瀬棚町の前浜、水深10メートル地帯のカシパンの生息状況を写したものですが、一面見渡すかぎりに敷き詰めたようなカシパンには驚かされます。実際には砂にもぐっているものも多数あり、見た目以上に高い密度で生息しています。このような状態のなかでホッキガイやエゾバカガイが砂の中から吸水管を出して生息していることになります。

  カシパンにはいろいろな種類がありますが、北海道にはハスノハカシパン、ハイイロハスノハカシパン、ナミベリハスノハカシパンの3種類がいます。このうちナミベリハスノカシパンについては道南の一部の海域にしかおらず、問題の地帯のほとんどはハスノハカシパンと呼ばれているものです。

  このハスノハカシパンは漁業者の間で「アカゼッパ」と呼ばれるもので、「ハイダラ」と呼ばれるハイイロハスノハカシパンに比べ大型で直径は約8センチメートルあり、生きている時は暗紫色ないし濃褐色をしています。
    • 海底に広がるハスノハカシパン
ハスノハカシパン略図
  体型は図に示しましたが、長さも幅もだいたい同じで、海底では背面を上にして生息しています。一生をどう送るのかについては不明な.点が多いのですが、主に浮遊幼生は5~7月に出現し、秋には出現しません。また、4腕期から8晩期までの出現状況から産卵は主に春で約一ヶ月続き、浮遊している期間は一ヶ月前後だということです。分類学上、カシパンは棘皮動物のウニ綱に属し、ヒトデ類やウニ類などの仲間ですが、ヒトデのような悪党でもなく、また、逆にウニのように人間に役立つものでもありません。

  さて、ハスノハカシパンがホッキガイやエゾバカガイなどに及ぼす影響についてですが、実はハスノハカシパンは貝類に直接的な害を与えるものではなく、逆に貝の糞や泥なども食べる海の掃除屋さんみたいな役目を果たしているそうです。また、貝の吸水管の上に住むようなことはなく、移動して邪魔にならないように住み分けをしているそうです。実験室でサラガイと一緒に飼育した例では、死んだサラガイの水管を食べているのが観察されたそうですが、実際、自然界ではどうなのかよく分かっていません。

  こうしたことから案外無頓着に放置されてきたというのが実情のようですが、それも程度の問題で、写真のように海底が一面ハスノハカシパンで敷き詰められてしまうと、それだけ貝類の住む場所が少なくなってしまいます。また、ハスノカシパンは、ホッキガイやエゾバカガイと同じ珪藻類や小動物やデトライタス(沈澱物)なども食べるので、食性上の競合関係にもなっています。

  漁業ではよく、有用なホッキガイやエゾバカガイは持ち帰り、カシパンは邪魔物扱いして漁場に捨てられますが、これは逆にカシパンの繁殖を助けていることになりますので、問題です。

  以上のことから、カシパンの生息密度が多いところでは、貝類の増繁殖をはかるためには極力駆除することが必要になります。
(専技室)