水産研究本部

試験研究は今 No.458「初夏の厚田海域で漁獲されている”サルエビ”」(2001年9月25日)

初夏の厚田海域で漁獲されている“サルエビ”

サルエビとは?

  サルエビなんて、聞いたこともない...北海道では、そんな方が多いのではないかと思います。

  今年の6月に、中央水試資源管理部へ、ちょっと風変わりな赤いエビ(写真)が、主任専門技術員高橋正士さんから持ち込まれました。
  厚田海域で、今年は比較的まとまってとれているとのこと...早速図鑑やエビに関する文献で調べることにしました。
  大きさは体長8センチメートル前後、体表面が細かい毛でおおわれていること、額角がほぼまっすぐかやや先端が上方に曲がっていること、額角の上縁に7本程度の棘(とげ)がある、などの特徴から“サルエビ(Trachypenaeus cuvirostris)”と判断されました。

いろいろな文献から、以下のことが分かりました。
分布
  このエビはクルマエビ科に属しており、本州、四国、九州各地では最もふつうに出現する。世界的にみると、外国では韓国、中国、台湾、香港、マレーシア、インドネシア、エジプト、イスラエルといった、中部太平洋を除くインド洋や西太平洋海域に広く分布し、スエズ運河を通って地中海にも侵入している。内湾では水深20~30メートルの砂泥質の海底に生息する。
生態
  大きさは雄では体長(眼窩後縁から尾節までの長さ)87ミリメートル、雌では114ミリメートルに達する。産卵期は、仙台湾では7月を中心とする夏季、大阪湾では5月上旬~10月上旬、三河湾6月上旬~10月上旬、周防灘6月~10月、有明海では5月下旬~10月下旬である。寿命は1年あるいは1年数ヶ月程度と推定されている。3ヶ月で親になる世代(短期世代)と1年で親になる世代(長期世代)があり、それぞれ1回の産卵後には死滅する。仙台湾の報告では、産卵期である7~9月に30~50メートルの水深の浅い海域、10~12月にはやや深い50~60メートルに分布し、冬期には深みまで分布が広がり、季節的な深浅移動を行っているとのこと。
漁業
  主に小型底びき網漁業で漁獲される。仙台湾より南の太平洋沿岸各地、特に、東京湾、三河湾、伊勢湾、瀬戸内海や有明海などで多くの漁獲があり、重要な漁獲対象となっている。
利用
  むきえび、佃煮、干しエビに加工され、釣り餌にもなる。なお、全体に赤みが強く、猿の顔を連想させるため、サルエビと呼ばれるようになった。
    • 写真1
      高橋正士主任専技が資源管理部に持ち込んだサルエビ

      (漁獲時期:6月中旬、漁獲場所:厚田沖水深約15m、漁法:マメイカ小定置網)

厚田海域のサルエビは?

  クルマエビの仲間の中では、もっとも北に分布する種類で、北海道では余市や忍路湾からも採集された記録があります。ただし、厚田沖から採集されたことにより、記録としてはやや北へ延びたということになります。

  今回、中央水試資源管理部に持ち込まれたのは5尾で、大きさ(体長)は68~87ミリメートルでした。第1腹肢内肢を観察したところ全て雌でした。雄がいなかったのは、雌に比べて雄は小さく、大型個体ばかりが持ち込まれたためだと考えられます。

  石狩地区水産技術普及指導所の児玉所長から聞いた、厚田海域におけるサルエビの漁獲状況・利用状況は以下の通りです。

  「ジンドウイカをとるために設置された小定置網で捕れ、6月の2週間くらいまとまって捕れる。場所は厚田と古潭の中間の水深15メートル程度の海域で、まとまって捕れる場所は比較的限られている。概ね毎年捕れるが、今年は比較的まとまった漁獲があった。

  1回の揚網で1~2キログラム、多いときには10~15キログラムほど捕れる。平成13年は全部で100キログラムぐらいの水揚げである。地元では、子供たちのおやつや刺身などにして、自分たちのまかないにしていたが。今年はまとまって揚がっていることから、“朝市”に出荷して、札幌から来るお客さんからかなりの好評を得ているようだ。」とのことでした。

  なお、ホッコクアカエビやトヤマエビなどのタラバエビ科のエビが一定の期間腹に卵を抱いているのに対し、クルマエビやサルエビなどのクルマエビ科のエビでは腹に卵を抱かないで、水中に直接産卵します。このため、サルエビでは、厚田海域で産卵しているかどうかは外見では分かりません。今回の標本では生殖腺の発達状況や交接栓の有無など、詳しく調べることができなかったので、この海 域で産卵しているのか、さらには再生産を行っているのかどうかは不明です。厚田海域では、毎年、このエビが捕れる、また、数年前から7、8月に中央水試で行っているヒラメ幼魚を対象とした小型そりネット調査の中で、石狩新港周辺や余市沖の10メートルより浅い海域において少ないながら採集されています。

  このようなことから、石狩湾周辺では再生産している可能性が高いと考えられます。今後、何かの機会があれば調べてみたいと思っています。

  なお、参考のために私が調べた文献を載せておきます。

1)池末 弥:有明海におけるエビ・アミ類の生活史,生態に関する研究.西海水研報,30,1-124(1963).

2)椎名季雄:節足動物(1)総説・甲殻類.動物系統分類学7(上),東京,中山書店,1964,312p.

3)久保伊津男:新日本動物図鑑(中).東京,北隆館,1965,600.

4)小坂昌也:仙台湾産サルエビTrachypenaeus cuvirostris (STIMPSON)の生態.東海大学紀要海洋学部,12,167-172(1979).

5)林 健一:日本産エビ類の分類と生態.海洋と生物,19,110-113(1981).

6)三宅貞祥:原色日本大型甲殻類図鑑1,東京,保育社,1983,261p.

7)馬場啓次・林 健一・通山正弘:日本陸棚周辺の十脚甲殻類.東京,日本水産資源保護協会,1986,335p.

8)日下部敬之:大阪湾におけるサルエビの成長と成熟.大阪水試研報,10,59-69(1997).

9)日下部敬之:サルエビ Trachypenaeus cuvirostris の1回当たり産卵数.大阪水試研報,11,35-38(2000).

10)多紀保彦,奥谷喬司,武田正倫,近江卓(監修):食材魚貝大百科(1),エビ・カニ類,魚類,東京,平凡社,2000,181p.
(中央水産試験場 資源管理部 高柳志朗)