水産研究本部

試験研究は今 No.555「利尻礼文地区でホッケに関する研究結果説明及び意見交換会開催」(2005年10月20日)

意見交換会開催に至る経過

  宗谷支庁管内には、地区内における資源管理を推進し、水産資源の維持、増大に寄与することを目的とした、沿岸漁業者と沖合底びき網漁業者の代表で構成される「宗谷地区資源管理推進委員会」が設置されています。近年、スケトウダラ資源が減少したことにより、ホッケ資源への漁業の依存度が高まり、今後のホッケ資源の動向や資源管理などに関する事項について検討協議するための「ホッケ小委員会」が平成15(2003)年3月に当委員会の中に設置されました。稚内水産試験場はオブザーバーとして参加しています。宗谷管内で漁獲されるホッケは、道央日本海からオホーツク海に広く分布、回遊する「道北系群」と考えられており、近年の資源水準は比較的高く、安定した状況でした。ところが、平成16(2004)年の宗谷管内の沖合底びき網の漁獲量は前年比54パーセント増の58,467トンであったのに対し、利礼の沿岸刺し網は前年比52パーセント減の5,437トンと全く逆の結果となり、平成17(2005)年1月開催のホッケ小委員会で、この原因について水産試験場に調べて欲しいとの依頼がありました。

  その後、稚内機船では2005年漁期前半の5月まで毎月3,000トンを越えるホッケの水揚げが続いていましたが、利礼では、ホッケ巻き網は皆無状態で、刺し網の漁獲もさっぱり伸びておらず、利礼の漁業関係者からホッケの漁獲の低迷に対する声が稚内水試に寄せられるようになりました。

  そこで、稚内水試として、ホッケ小委員会の意向も受けていたことから、2005年漁期前半までの資料を整理して水試の資源動向に関する見解を整理し、例年9月に開催されている稚内機船漁協関係者とのミニプラザの場を利用して伝え、利礼の沿岸漁業者へは漁獲物測定調査の機会を利用して説明会を開催するなど広く情報発信していくことになりました。

2005年の資源評価と資源動向について

  水産試験場では、1985年から道北系ホッケの漁獲統計や生物測定資料を蓄積しており、コホート解析と呼ばれる手法を採用して資源判断を行っています。2004年の道北系ホッケ漁獲量は15万1千トンと2003年より増加し、このうち沿岸漁業では2万5千トン、沖底漁業では12万5千トンでした(図1)。
    • 図1
      図1 道北系(道央日本海~オホーツク海域)ホッケの漁獲量
  しかし、沿岸での漁獲は2003年の約半分まで減少し、特に利尻・礼文・後志などの日本海側では著しく減少しました。沖底での漁獲増は夏場を中心にオホーツク海側に漁場(通称イース場)が形成され、例年にはなかった漁獲が加わっていたことがわかりました。そして、これらのホッケの60パーセントが2003年生まれの1歳魚であり、2003年生まれはかなり大きな卓越発生群であることが想定されました。しかし、2005年漁期前半における2004年生まれの1歳魚(ローソクボッケ)の漁業への出現状況をみると、2004年級は資源的にかなり低いレベルと判断せざるを得ないことから、推定された2004年の年齢別の合計資源尾数は16億尾と、過去10年の中でも最も低い数字になりました(図2)。
    • 図2
      図2 年齢別資源尾数(推定値)
  7月始めの段階では来年以降の資源動向を左右する2005年生まれのホッケの情報はまだないため、道北系のホッケの資源状況は「中水準」、資源動向は「減少と判断しました。その後、7月中旬頃から礼文島のホッケ刺し網で、まとまった水揚げがようやくみられるようになったとの情報が入り始めました。

機船ミニプラザについて

  稚内水試では、3年前から当年生まれのホッケの発生状況を初期段階で把握するための調査を9月上旬に開始しました。これは、日本海での沖底漁業の操業再開(9月16日)を前に、例年沖底業界の要望で機船ミニプラザを開催し、その年の沖底漁業対象となる主な魚種の資源動向について情報提供し、意見交換をする資料として用いています(2004年の機船ミニプラザについては、「試験研究は今 No531」参照)。

  データの蓄積が少なく、まだ資源量把握に使えるレベルではありませんが、底びき網漁業操業海区の811~813海区(通称ノース場)でローソクボッケ(0歳魚)の分布調査結果と現在の資源状況について、9月13日の機船ミニプラザで説明しました。この調査からは、2005年生まれのローソクボッケが比較的多く分布しており、2004年級ほど低い資源レベルではないことが推定されました。しかし、2004年級が極端にすくないこともはっきりしてきたことから、卓越発生と考えられる2003年級も含めて、ホッケ資源を大事に利用していく必要があることを報告しました。

利礼でのホッケに関する説明会と意見交換会について

   説明会は、礼文町・利尻町・利尻富士町役場の協力を得て、9月27日から30日にかけて、船泊、香深、沓形、鴛泊の4ヶ所で開催しました。例年水試が実施しているホッケ漁獲物測定調査と合わせたわけですが、ちょうどホッケ刺し網漁業の最盛期であり(写真1)、好天が続き多忙な中にもかかわらず、集まって頂いた漁業者の皆さんの数は、予想以上でした(写真2)。
    • 写真1
      写真1 ホッケの網はずし作業(礼文島)
    • 写真2
      写真2 説明会風景(利尻島)
  礼文島では島の西側に好漁場が出来、型はややこまかいものの、値段も良い状況でした。卓越発生群である2003年級のほぼ全てが産卵に加わる年齢に達していたことから、予想はしていたものの、実際に産卵のために沿岸に寄ってきてくれたとひとまずは安心しました。しかし、水温が高いので、漁場の水深は、75~150メートルと深く、産卵も若干遅れているようだとのことでした。水試には、この先どうなるかの調査をして欲しい、ただデータを集めて解析しているだけでは意味が無いというきつい意見もありました。

  利尻島でもホッケ刺し網漁場の水深は深く、産卵は遅れ気味であり、型もこまかいが今後良くなる兆しがある、そして、春先の不漁は餌のオキアミがいなかったことにも原因があると考えているとのことでした。しかし、既に漁期が終了しているホッケ巻き網漁の皆無状態は平成11年(1999年)以来であり、近年型の良いものが混じる割合が極端に少なくなっている、2005年生まれの発生が2004年生まれよりは良いという話だが先取りされてしまったらどうにもならない、水試の資源評価の判断はその通りだと思うが説明会をやって終わりというのではなく、沿岸と沖合への対策も早いうちに出して関係者を広く集めた話し合いの場を作らなければ、水試のデータ、努力、お金が無駄になる、という厳しい意見が出されました。

  稚内水試では、今回の説明会の内容をホッケ小委員会に報告するとともに、「資源の説明会と意見交換会」の継続を検討し、ご意見を参考にホッケ資源調査に反映させていきたいと思います。
(稚内水産試験場資源管理部・企画総務部)

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