水産研究本部

試験研究は今 No.558「アサリの生息密度が成長に及ぼす影響」(2005年11月18日)

はじめに

  アサリは、干潟域を中心に生息する潜砂性二枚貝であり、有用な水産資源になっています。しかし、生息場の消失や生息環境の悪化により、1980年代には10万トン以上を記録した全国のアサリ漁獲量は、2002年には約3万4千トンまで減少しました。

  北海道では、釧路、根室管内を中心とした天然漁場や人工的に造成したアサリ増殖場においてアサリ漁業を行っています。北海道のアサリ漁獲量は、全国的に漁獲量が減少する中、近年は1,500トン前後で推移しています。今後、北海道におけるアサリ漁業をより安定的に実施していくためには、現地の人たちが漁場の環境を評価し、維持管理できる仕組みづくりが必要です。そのためには、漁場環境評価のために調査すべき項目を選定し、それらの項目とアサリの生息や成長との関係を明らかにしなければなりません。

  そこで、中央水産試験場では釧路水産試験場と共同して平成16年度より重点領域特別研究事業「アサリ増殖場の維持管理手法の開発」の中で、漁場の定期的な調査および室内実験を実施し、アサリ増殖場の維持管理手法の構築を目指しています。ここでは、適正なアサリの生息密度を明らかにするための一環として、釧路管内浜中町霧多布のアサリ増殖場において生息密度別にアサリの成長量調査を実施した結果について紹介します。

調査方法

  アサリの生息密度が成長に及ぼす影響を調べるために、以下に示す方法で試験区を設置しました。まず、蓋付きのプラスチック製かご(縦×横×高さ、0.32メートル×0.51メートル×0.27メートル)を写真1のように9個増殖場に埋設しました。かごの内部は、あらかじめ4つの区画(1区画の面積、約0.04平方メートル)に分割し、計36個の小区画を作成しました。次に、かごの中に増殖場の砂を入れ、各区画に異なる密度で平均殻長29.3ミリメートル、平均重量4.7グラムのアサリを移殖しました。アサリを移殖する密度は、過去に行われた資源量調査結果を参考に、高密度区(1区画90個、2250個/平方メートル)、中密度区(1区画50個、1250個/平方メートル)、低密度区(1区画10個、250個/平方メートル)の3段階としました。なお、移殖に用いたアサリは釧路管内藻散布沼から採取しました。

  アサリは、基本的に毎月、各密度区から採取し、殻長(A(センチメートル))、殻高(B(センチメートル))、殻幅(C(センチメートル))、全重量および軟体部湿重量(D(グラム))を測定しました。また、測定結果からアサリの身入りや活力の指標となる肥満度(D/(A×B×C)×100)を計算しました。
    • 写真1

殻長および肥満度の平均値の推移

  図1は、生息密度による殻長および肥満度の平均値の推移を表しています。殻長は、6月まで生息密度による成長の差はほとんど見られませんが、7月から10月にかけて生息密度が高いほど成長が悪くなる傾向が見られました。また、11月以降は、殻長の成長はほとんど見られませんでした。肥満度は、7月まで上昇あるいは横ばいで推移し、8月に急激に低下しました。この肥満度の低下は、アサリの産卵によって生じたと考えられます。その後、肥満度は10月まで上昇し、11月以降はほぼ横ばいで推移しました。生息密度による肥満度の差は産卵期前後に現れ、生息密度が高いほど産卵前の肥満度の上昇が小さくなり、産卵後の肥満度が低く推移する傾向が見られました。これらより、アサリの生息密度が高くなると、成長が悪くなることに加え、肥満度の低下も引き起こすことがわかりました。このような現象が見られた理由の1つとして、生息密度が高くなることによってアサリ1個体当たりが摂食できる餌の量が減ったのではないかと考えています。
    • 図1

まとめ

  本調査結果より、アサリの生息密度が高くなると成長が悪くなり、肥満度の低下も引き起こすことがわかりました。ここで紹介したアサリの生息密度と成長の関係は、霧多布アサリ増殖場の餌環境に対する結果であり、他の漁場に適用することはできません。つまり、漁場毎に餌環境を調べ、アサリの摂餌量との関係から生息密度を決定する必要があると考えられます。アサリは、海水中の植物プランクトン、波浪や潮流によって再懸濁した底泥中の付着珪藻やデトライタスを餌として食べていることが知られています。本研究では、海水中および底泥の餌料量を調べるとともに、室内実験でアサリの摂餌量について検討しています。今後、これらの結果を総合して、アサリの成長に適した生息密度を明らかにしたいと考えています。
(中央水産試験場 水産工学室 中山威尉)

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