水産研究本部

試験研究は今 No.557「カワヤツメについて」(2005年11月11日)

ページ内目次

カワヤツメ

 北海道で見ることができるヤツメウナギには4種類(カワヤツメ、スナヤツメ、シベリアヤツメ、ミツバヤツメ)がいますが、このうち唯一漁業対象種として利用されているのはカワヤツメです。カワヤツメは主に日本海側の河川で内水面漁業対象種として漁獲されています。また、脂肪分が多く、ビタミンAを豊富に含む健康食品として知られています。北海道では生鮮の他、乾物にして保存食として利用されているだけですが、本州では成分をとりだし、医薬品として販売されています。今風に言えばサプリメントですね。
  カワヤツメは、以前から石狩川、尻別川、利別川などでは漁獲されていましたが、すべての河川で減少する傾向にあり、特に、石狩川では昭和63年に115トンを漁獲した後、急激に減少し、平成13-15年では3-4トンにまで落ち込みました。前記の医薬品の原料に、減少した部分は外国からの輸入により充当しているのですが、大きな国内生産地である北海道の漁獲量がここまで落ち込んでしまうとカワヤツメを利用する文化自体がなくなってしまうことさえ懸念されます。そこで、石狩川の流域でカワヤツメを漁獲している人々が住んでいる石狩、空知両支庁が主となって「ヤツメ文化保全再生事業」をスタートさせました。水産孵化場もこの事業に協力してカワヤツメ資源の保全再生に向けての提言をするための調査研究を行っています。

  さて、カワヤツメの情報はと言うと人間と関わりの大きい生物でしたので不明確な情報も含めていろいろなことが伝えられています。秋から春にかけて卵を産むために海から川にのぼり、5-6月に上中流域の流れの速い瀬に卵を産み付けます。この卵は弱い粘着性を持っていて砂利にくっつき、10度くらいの水温ですと20日間ほどで卵から生まれ出ます。卵から生まれると下流の泥が堆積するような流れの場所に住み家を移し、泥の中に潜って生活します。泥の中に含まれる有機物を餌として成長しているのだと言われています。このように泥の中に潜って三年目(早いものでは二年)の秋、それまで無かった体の変化が起こります。皮膚に埋もれていた目がぱっちりと開き、特徴である7対のえら穴も開きます。
  口もそれまでスコップをひっくり返したようなものから、ヤツメウナギ独特のまるいものに、体の色も茶色から背中が青黒く、おなか側が銀白色に大きな変化を遂げます。この後、倒木の陰や蛇篭の中などに隠れて越冬した後に、翌春海に下ってゆきます。海に出た後、さけます類などに吸い付き、体液を吸って成長しているものと考えられています。事実、北米の五大湖の一部に生息するSea Lamprey(湖にいるのにウミヤツメ?日本のヤツメは海に降りるのにカワヤツメ?)は五大湖に遡上してくるサケに寄生して大きな被害を与えていることが報告されています。

  これら一つ一つが科学的な裏付けのあったものではないので、それぞれ、検証を行いながら進めているのが現状です。例えば、カワヤツメが河川で何年暮らし、また海で何年生活して河川に戻ってくるのかも一般的に魚の年齢を把握するのに用いている鱗、耳石、骨等の器官を用いることができるのか、はっきりわかっていないのです。

  しかし、調査を行っていくうちに、少しずつですが、カワヤツメが住みにくくなっている状況がわかってきました。カワヤツメが川にいるときのほとんどはアンモシーテス幼生と言って、前に述べたように、川底の泥の中に潜って生活していますが、泥は流れの緩やかな本流の岸沿いの浅いところや本流から流れが分かれた副流に溜まりアンモシーテス幼生に生活場所を提供しています。ところが河川の掘削などによって本流の水位が下がり、岸沿いの浅い部分が干上がってしまったり、橋梁を建てるために流れが堰き止められたりするのを目の当たりにしました。

  また、ある支流では堰堤の上流を調査したところ、海に降りないスナヤツメのアンモシーテス幼生ばかりが採集されました。この支流の下流部ではカワヤツメのアンモシーテス幼生がいることがわかっていますが、なぜ、頭首工の上流にはいないのでしょうか。 この頭首工にはサケの親魚が上ることができる立派な魚道ができていますが、カワヤツメにはこの魚道の流れは速すぎるようです。この頭首工の上流にもカワヤツメの産卵に適した場所があるのにもかかわらず、そこでストップされている、そのようなところも多いのではないでしょうか。

  このように産卵と幼生の生育とで河川の異なる環境を巧みに利用してきたカワヤツメが河川を取り巻く環境の変化に対応できず、打撃を受けていることも事実であると考えています。これからの調査で河川内での産卵、生育環境を明らかにし、カワヤツメの資源を少しでも以前の状況に近づけるための資料を提供してゆきたいと考えています。
(水産孵化場内水面資源部 笠原 昇)

印刷版