水産研究本部

試験研究は今 No.563「未低利用藻類の有効活用を目指して(Part2)」(2006年3月8日)

はじめに

図1
  北海道の代表的な水産バイオマス資源のうち、海藻ではアイヌワカメ、スジメ、間引きコンブそしてコンブ付着器(通称ガニアシとも呼ばれています)が年間約9,000トン廃棄されています。また、コンブからエキスを抽出した後の抽出残滓など、多くの海藻バイオマス資源が有効利用されていない状況にあります。

  このような海藻のうち褐藻類と呼ばれているものには、カロチノイド色素の一種であるフコキサンチン(図1)が含まれています。このフコキサンチンは、抗酸化活性で活性酸素を除去したり、がんを予防したりするほか、最近では肥満を防ぐ作用があるのではないかともいわれています。加工利用部では前報(第540号)で紹介した通り、この有用成分を効率的に海藻の中に濃縮する技術開発や、抽出して利用する技術開発を(独)中央水産研究所及び(独)畜産草地研究所と共同で行っています。

フコキサンチンの効率的な抽出条件の検討

図2 水産バイオマス中のフコキサンチン含有量
  私たちが去年まで行ってきた試験で、北海道の代表的な海藻バイオマス資源の中では、コンブ付着器にフコキサンチンが豊富に含まれていることが分かりました(図2)。そこで、このコンブ付着器のフコキサンチンを効率的に抽出するために、原料性状や抽出溶媒との関係を検討しました。

  コンブ付着器(写真1)は、付いている夾雑物を取った後、試験に使うまで冷凍(-25度)または乾燥(50度、約8時間で乾燥、室温保管)させて光が当たらないように保存しました。フコキサンチンの抽出溶媒として、色素の抽出で一般的に使われるアセトン:メタノール(3:2)混合溶媒のほか、メタノールやエタノールにより以下のように抽出しました。
写真1 コンブ付着器(養殖)
   冷凍コンブ付着器約100グラムは解凍後すぐに5倍量の上記3種類の溶媒に一晩室温で漬けておき、抽出液を回収後、同様に2回目、3回目の抽出を行いました。
 
  乾燥させた海藻から色素を抽出する時は、有機溶媒のみで行うより、水系を含む溶媒の方が抽出性が良いとされています。そこで、乾燥コンブ付着器約10グラムに対し、5倍量の上記3種類の溶媒の含水率(溶媒100パーセント、80パーセント含水溶媒、60パーセント含水溶媒)を変えて一晩漬けておき、溶媒の種類や含水率の違いがフコキサンチンの抽出性に及ぼす影響について検討しました。各抽出液のフコキサンチン含有量は高速液体クロマトグラフ(HPLC)で測定しました。なお、フコキサンチン含有量は水分が全く無いと仮定した時の値である無水物換算値で表しています。
 
  冷凍コンブ付着器から上記3溶媒で抽出されたフコキサンチン含有量を比較したところ、エタノールでは1回目で213.1ppm、3回合計でも252.0ppmと最も多く抽出されました(図3)。また、3回目にはほとんどフコキサンチンが抽出されてきていませんので、抽出回数は3回で十分と考えられます。
    • 図3、図4
   乾燥コンブ付着器から含水率を変えた各溶媒でフコキサンチンを抽出したところ、総じて水系を含む各溶媒で抽出性が良く、特に60パーセントアセトン:メタノール(3:2)混合溶媒ではフコキサンチンが24.7ppm抽出されました(図4)。今回はスクリーニングの目的で行ったため抽出回数を1回としましたが、複数回抽出することによりフコキサンチンをさらに抽出する事が出来ると考えられます。
 
  コンブ付着器からのフコキサンチン抽出量は、冷凍物の方が乾燥物より多くなりました。しかし、冷凍物は乾燥物と比較して体積が大きいため、より多くの溶媒が必要になるほか、保存期間が長くなるほど冷凍庫のランニングコストがかかるので、実用化の際には溶媒の再利用など低コスト化も考える必要があります。

おわりに

 生のコンブ付着器は組織が硬く、作業上処理しにくいという問題点があります。ところが、冷凍・解凍することでコンブ付着器を全体的に柔らかくさせることが出来ました。これによりコンブ付着器の処理が容易になるため、様々な方向に利用途が広がるのではないかと期待されます。

  また、今回はコンブ付着器から夾雑物を除いて試験を行いましたが、夾雑物を除くには多くの作業時間がかかり、必然的に処理できる量が限られ、人件費も高くなることが予想されます。そのため、夾雑物が付いたままの状態でのフコキサンチン抽出が可能となれば、コンブ付着器の有効利用に大きく近づくものと考えられます。
(中央水産試験場 加工利用部 佐藤暁之)

印刷版