はじめに
「道東産の生鮮サンマは他地区より脂が乗っておいしい」、これは福岡県魚市場の関係者の声(2005年8月31日付の水産経済新聞)です。北水試だより第68号「水産物の原料特性って?」で紹介しましたが、道東で水揚げされる大型サンマ(体長29センチメートル以上)の脂質量は20パーセント以上を占めるものがほとんどです。サンマは回遊魚で、道東から、三陸、銚子沖へと南下をしながら産卵を続けるため脂質量も減少してしまいます。いまや、道東のサンマは九州地方からも好評で、全国区にまで成長しました。これは、生産者、加工業者そして流通業者が一体となり取り組んだ成果で、最近では生鮮サンマのブランド化も活発に行われています。水産物の鮮度は、おいしさ、栄養性や機能性と同様に、重要な品質評価の要素です。魚の鮮度判定には、眼や鰓の色そして硬さなどによる官能的な評価が用いられますが、今回は客観的な指標(K値)によりサンマの鮮度を数値化した結果を紹介します。K値(※)は死後の魚肉に含まれるATP(筋肉を動かすために必要なエネルギー物質)の分解程度を表し、K値が低いほど鮮度は良好で、一般的にはK値が20パーセントまでは生食(刺身)可能であるといわれています。
実態調査
サンマは主に棒受網と呼ばれる漁法で漁獲され、フィッシュポンプで海水ごと吸い上げて、予冷された魚倉へ氷と一緒に入れられ港まで運ばれます。港ではトラックもしくは大型タンクに荷揚げされ、そのままの状態でセリが行われ、加工場に搬入されます。加工場では重量別にコンピューター選別され、通常4キログラムに計量後、清浄な海水と氷が入った発泡スチロール箱に詰めて製品化されます。各工程の鮮度を調査した結果、荷揚げ後のK値は3パーセント、加工場への搬入時は4パーセント、そして製品では5パーセントの値でした(図1)。今回の実態調査では、製品までのK値の変化はほとんどなく、十分な鮮度管理が行われていることが分かりました。
貯蔵試験
つぎに、チルド発送された製品の鮮度変化と鮮魚売場や家庭の冷蔵庫での保管を想定し、5、10度に貯蔵した場合のK値を測定しました(図2)。チルド製品のK値は4日後でも12パーセント、5度貯蔵では3日後に17パーセント、10度貯蔵では2日後で20パーセントに達し、貯蔵温度により生食(刺身)可能な日数が異なり、低温管理の重要性があらためて分かりました。
新たな取り組み
実態調査で述べたように、通常は陸上の加工場で選別し、製品となりますが、最近では漁獲後、船上で直ちに、清浄な海水と氷が入った発泡スチロール箱に詰めて製品化する新たな取り組みも行われています。K値では大きな差はありませんが、肉の破断強度(歯ごたえ、硬さ)は船上で箱詰めしたサンマの方が高く(図3)、差別化された製品といえます。
おわりに
鮮度は水産物の重要な品質のひとつであり、K値で鮮度を数値化することにより、客観性も強まります。また、鮮度を保持することにより、道産水産物の競争力も増し、販路拡大にもつながります。ビールも鮮度重視の時代、道産水産物も今こそフレッシュ!PR!
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図1 生鮮サンマの工程別のK値
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図2 貯蔵温度別の生鮮サンマのK値
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図3 製品(船上と加工場)別生鮮サンマのK値と破断強度
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※K値
生鮮魚介類の鮮度判別の指標の1つ。魚介類の死後ATPが酵素的に分解され、ATP→ADP→AMP→IMP→HxR→Hxという分解経路をたどることから、これを次の式により算出し、数値価したものです。 K値が上昇するほど鮮度が低く、一般的にはK値が20パーセントまでは生食(刺身)可能であるといわれています。
生鮮魚介類の鮮度判別の指標の1つ。魚介類の死後ATPが酵素的に分解され、ATP→ADP→AMP→IMP→HxR→Hxという分解経路をたどることから、これを次の式により算出し、数値価したものです。 K値が上昇するほど鮮度が低く、一般的にはK値が20パーセントまでは生食(刺身)可能であるといわれています。
ATP:アデノシン3リン酸、ADP:アデノシン2リン酸、AMP:アデノシン1リン酸、IMP:イノシン酸、HxR:イノシン、Hx:ヒポキサンチン
(釧路水産試験場 加工部 辻 浩司)