水産研究本部

試験研究は今 No.572「カワヤツメ、その後」(2006年7月10日)

カワヤツメ、その後

  「試験研究は今No.558」でカワヤツメの生態や現状をお伝えしたところです。おさらいをしますと、カワヤツメの漁獲量は非常に少なくなっていること、そのために「ヤツメ文化保全再生事業」をスタートさせてカワヤツメ資源の再生だけではなく、カワヤツメを利用する文化についても保全するために調査研究とともに啓蒙活動についても行ってきています。今回は実際の調査や啓蒙活動の様子を紹介したいと思います。

  カワヤツメは5-6月に上中流域の流れの速い瀬に卵を産み付けますが、産卵場に行き着くまでに遡上の障害となる河川横断工作物が多いことがわかりました。カワヤツメは早い流れでものぼって行きますし、その体の形から表層の流れが速いところでも川底の流れの遅い部分を這うようにのぼって行くのを得意としてい ます。ところがサケやマスのようにジャンプして飛び越えるのは不得意のようで す。例えば写真にある工作物の場合、落差は30~40センチメートル位で簡単にのぼって行けそうですが、この工作物より上流にはカワヤツメの幼生はほとんど生息していません。つまり、親魚が上流にのぼれなかったためです。
  また、川底の砂利は常に下流に流されている代わりに上流から流され、供給されているわけですが、砂利を沈降させて流さないようなダムが上流側にできると、川底に産卵床を構成する砂利のない河川ができてしまいます。このような場所ではカワヤツメは産卵を行うことができません。

  卵から生まれたアンモシーテス幼生は流れに乗って、餌となりかつ外敵から体を隠す泥のある場所にたどり着きます。川の中で3~5年もすごす重要な生活の場が狭くなって来ています。 例えば中流部の本流では河川の直線化によって本来泥が貯まるような流れの遅い場所が少なくなり、生息場所が少なくなっています。私たちが実際に観察した支流では次のような事例が見られました。
  私たちが調査を行っていた場所は石狩川の支流ですが、直線化によりさらに河跡湖のようになった部分です。しかし、水は浸透することによって流れており、幼生が生息するために好適な泥が堆積する ちょうど良い流速を示していました。ところが、橋桁の工事によってこの流れが遮断され 、流速は遅くなり、いつも濁った状態となりました。その結果、ここ一年間で、生息密度は半分に減少しました。本流下流部では掘削工事によって岸辺の浅い好適な生息域が失われる ことや、海水が浸入することによってアンモシーテス幼生の生息場所が失われることが懸念されています。

  カワヤツメの資源を回復させるためには、これらの環境を整えて行くだけで十分でしょうか。答えは否です。これだけ減少した資源を回復させるためには大量の卵を産ませることもあわせて行うことが必要です。事実 シシャモの場合、日高以西、胆振海域でシシャモ資源が減少し、平成3年から4年間の自主休漁により資源を回復させました。この時も 資源回復の取り組みは、環境、漁獲管理、それでも回復しないときに種苗を添加する手法としてのふ化技術開発の三本立てで臨みましたが、漁獲管理が最も効果を上げた結果でした。現在、カワヤツメもこの三つの手法によって 取り組んでいますが、漁獲管理についてはまだ理解が得られず、進んでいない状況にあります。

  カワヤツメに縁の深い地である江別ではカワヤツメをとる漁業者がいるだけではなく、北海道内ではここだけと思われるカワヤツメ専門料理店があります。 一方、その江別の地で行われていたヤツメ祭りは祭りの主役であるカワヤツメがとれないために平成15年から休止するに至っています。このように、一般住民には馴染みがなくなって行くカワヤツメですが、この「石狩川ヤツメ文化保全再生事業」のなかで、カワヤツメを利用する文化や食する文化などを保全する試みも行っています。それが「ヤツメを考える会」です。平成17年3月に江別市で、平成18年 3月には岩見沢市で行われましたが、いずれもたくさんの方々に参加していただき盛況のうちに終わりました。特に試食コーナーは好評で皆さん列を作っていらっしゃいました。
  このように、「石狩川ヤツメ文化保全再生事業」は着々と成果をあげています。カワヤツメが卵を産むために戻ってくるまで5-8年と予想されることから、この事業の期間内で資源が回復することは不可能ですが、新しい事業に引き継がれ、カワヤツメの資源が復活する日が必ず来るものと考えています。
(水産孵化場内水面資源部 笠原 昇)

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