水産研究本部

試験研究は今 No.577「大樹町前浜におけるシラウオ漁獲試験」(2006年10月4日)

大樹町前浜におけるシラウオ漁獲試験

  シラウオは、日本各地の河口域や海跡湖など、淡水と海水が混じりあう汽水域に分布し、1年で一生を終える年魚です。また市場価格が1 キログラム当たり数千円もすることから、沿岸漁家にとって魅力的な漁獲対象となっています。小川原湖、霞ヶ浦、網走湖といった海跡湖などでは、年間数十~数百トン単位で漁獲されますが、河口域では数トン単位と少なく、その資源の規模は汽水域の広さによって規定される傾向があります。十勝地方の沿岸には湧洞沼(ゆうどうぬま)、生花苗沼(おいかまないとう)などいくつかの海跡湖があり(図1)、シラウオの生息域としての条件を備え、シラウオが分布しています。しかし、実際の漁獲対象とはなってきませんでした。

  大樹漁業協同組合では、数年前に生花苗沼内におけるワカサギ地曳網でシラウオが混獲されて以来、青年部が中心となりシラウオの漁獲試験(大樹町沿岸漁業資源増殖試験事業および北海道栽培漁業振興公社漁業技術研究支援事業)を実施しています。この試験では、十勝地区水産技術普及指導所が試験全体の指導に当たり1)、産卵のために前浜に来遊する親魚を対象に4~6月に湖内では地曳網、前浜では刺し網を用いてシラウオを採捕しています。そして、中央水産試験場は生物測定を通して生態の解析をサポートしています。今回、平成16~18年(2004~2006年)に採捕されたシラウオの体長および性比の特徴を紹介し、そこから見える資源の利用方針について考えてみました。
    • 図1
      図1 大樹町周辺の海岸地形図
    • 写真 大樹町前浜で採捕されたシラウオ(上:雌、下:雄)
体長
   シラウオは、全国のほとんどの生息域で雌の方が雄よりも体長が大きいことが知られています。大樹町前浜においても、写真に示したように、雌の方が雄よりも大きくなっていました。
 
  また、体長組成を見てみますと(図2)、年によって大きく変化しており、それぞれ異なった位置に複数のピークがみられました(図2の矢印:青が雄、赤が雌の組成のピーク)。シラウオは年魚ですから、複数のピークは成長速度が異なるいくつかの群が存在していることを示唆しています。たとえば、石狩川水系では夏~秋に三日月湖に回遊する群と沿岸に留まる群があって、三日月湖に回遊する方が成長が良いことが知られていますし2、網走湖でも冬に降海する群と湖内に留まる群があることが報告されています3
 
  一方、年によってピークの位置が異なることから、密度効果(資源が多い年は、1尾当たりの餌が少なく成長が悪くなる)や餌環境の年変動が大きいことなどが伺えます。
 
  このように、体長組成からは、大樹におけるシラウオの資源構造が複雑であり、同時に資源が安定していないことが推察されます。ですから、本格的な漁獲を行う際には、捕りすぎない様に注意する必要があります。
    • 図2
      図2 大樹前浜で採捕されたシラウオの年別雌雄別体長組成
性比
   シラウオは、産卵場において性比(雄と雌の比率)が変化することが知られています。具体的には、石狩川水系において、大潮期(新月・満月期)に雌が多く、小潮期(半月期)には雄が多い傾向が認められています2)
 
  大樹町における採捕日ごとの雌雄別の採捕尾数をみますと(表1)、2004年と2005年には、石狩川水系と同様に大潮期に雌が多く(表1の赤枠)、小潮期には雄が多く(同青枠)採捕されています。ただ、2006年は中潮期にも関わらず、雄の方が多くなっています。これは、生花苗沼湖口沖で、引き潮が激しい時間帯に湖からの流出水の脇にできる緩流域で、多くの雄が採捕されたためであり、潮が止まる時間帯や他の場所では、雄と雌がほぼ同数採捕されています。
 
  この性比の偏りが資源管理に利用できる可能性があります2)。シラウオは年魚で、子を産む機会は1産卵期(実際には2ヵ月ほどの産卵期に何回も生む)に限られるため、基本的に漁獲と資源保護の両立が困難な魚種と言えます。しかし、雌雄がそれぞれペアの相手を入れ替えながら産卵する(乱婚型)ため、雄を選択的に漁獲して卵を産む雌を残しても “あぶれる”雌は多くなく、再生産に与える影響を少なく出来ると期待できます。ですから、「漁期を小潮時期のみに限定して漁業を行うと言った方針が望ましい」と考えます。

表1 採捕日別の月齢と雄・雌の採捕尾数
    • 表1
文献
 1) シラウオ漁獲試験指導(その1)(2003).十勝支庁十勝地区水産技術普及指導所.水産技術普及指導所活動事例集(平成15年3月)
2) 山口幹人(2006).石狩川下流域および沿岸域に分布するシラウオの資源生態学的研究.北水試研報.70.1-72
3) Arai T, Hayano H, Asami H, Miyazaki N.(2003). Coexistence of anadromous and lacustrine life histories of shirauo, salangichthys microdon. Fish. Oceanogr. 12(2): 134-139.

(中央水試資源管理部 山口幹人・十勝地区水産技術普及指導所 稲福伸也)

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