水産研究本部

試験研究は今 No.580「続・サケの隔日給餌試験」(2006年11月14日)

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はじめに

  北海道では毎年約10億尾のサケ稚魚が放流され、約5千万尾のサケが沿岸に回帰来遊しています。その漁獲金額は、輸入の増加などにより価格が低迷してはいますが4百億円台を保つ一大産業です。こうした状況の中、サケの種苗生産は大きな労力を必要とするため、その効率化には常に関心が持たれています。では、実際にその作業はどのように行われているのでしょうか?水産孵化場道北支場を例に、まず簡単に紹介します。

  増毛町にある道北支場では、9月下旬から10月下旬にかけて暑寒別川、信砂川、遠別川から計2350万粒の受精卵を収容しています。受精卵は12月頃、たんすの様な形の立体式孵化器の中で孵化します。2月頃仔魚から稚魚へとなった段階で飼育池に移されて、給餌を受けて成長します。4月には5センチメートル、1グラムほどの大きさとなった2000万尾の稚魚が、留萌管内の各河川に設けられた二次飼育池や港の海中飼育生簀へと運ばれ、そこでさらに2週間ほど飼育された後に放流されます。

  この種苗生産の過程において、飼育池での給餌や池掃除といった稚魚管理は種苗を十分に成長させるために重要であり、且つ大きな労力を必要とする仕事です。道北支場における給餌は、餌の入ったバケツを持ち、池の縁を往復して稚魚の摂餌状況を見ながら、手で餌を撒いて行います。こうした作業を1日6~7回、約1時間毎に繰り返し、池1面における1日の給餌量は最盛時で30キログラムにもなります。一方、池掃除は1日1回ブラシを使い、残餌や排泄物を池の上流から下流へと掃くように押し流して行います。こうした池掃除中は残餌等による濁りが激しいため、給餌を行うことはできません。道北支場には飼育池が20面あり、1つの池の面積は44ないし78平方メートルです。平日は5~7人の臨時職員が飼育作業に従事していますが、一日中給餌と池掃除に追われている状態です。

  このような飼育作業の負担を軽減する方法として「隔日給餌法」があります。これは、従来の毎日給餌をやめ、1日に与える餌の量を増やして給餌日数を減らすというものです。例えば、1日分の餌の量を2倍にして1日おきに給餌を行い、さらに給餌をしない日に掃除をするとします。給餌も池掃除もそれぞれ週3日で済むうえに、給餌は池掃除による濁りが引くのを待つ必要がなくなり、時間的な余裕が生まれます。

  水産孵化場では平成14~16年度の3年間に「給餌方法の改善によるサケ稚魚養成効率化試験」として、隔日給餌法の開発に取り組んできました。飼育実験の結果、1日おきの隔日給餌でも毎日給餌と変わらない成長をする事が明らかとなり、60リットル水槽における実験レベルでは隔日給餌での肥満度が高く、種苗として優位となる可能性も示されました(詳しくは、試験研究は今 No.503参照)。

  今回はこれらの結果を受け、事業規模の飼育で隔日給餌にどのような効果があるのかを明らかにするために、道北支場において飼育池2面を使って飼育試験を行いました。

方法

  試験は、道北支場の飼育池(幅2メートル×長さ22メートル×水深0.4メートル)2面において毎日給餌群と隔日給餌群を設定し、各池860千尾のサケ稚魚を用いて行いました。2006年2月22日、まず池2面とも毎日給餌で餌付けを始めて、3月27日から隔日給餌試験を開始しました。試験開始時の平均尾叉長と平均体重は毎日群4.00センチメートル,0.54グラム、隔日群4.07センチメートル,0.55グラムで差はありませんでした。給餌の設定は、毎日群では通常の増殖事業の方法と同様に、給餌率(体重に対する1日分の餌の重量)2.2パーセント、給餌日数は週6日(月~土曜日)、池掃除も週6日(月~土曜日)としました。隔日群では給餌率を毎日群の2倍の4.4パーセントとし、給餌は週3日(月、水、金曜日)、池掃除も週3日(火、木、土曜日)としました。どちらの群も餌料は事業で使用される通常のサケ用配合飼料を用い、給餌は1日7回に分けて行いました。毎日群の池掃除は5回目と6回目の給餌の間に行いました。飼育水は河川水と加温水を混合して使用し、どちらの池も水温2.6~5.7度で注水量は300~350リットル/分でした。毎週月曜日の給餌前に各池60個体の尾叉長と体重を計測し、平均体重と給餌率からその週の給餌量を算出しました。試験は、輸送前日の4月18日まで、22日間行いました。

結果

  今回の試験において毎日給餌群と隔日給餌群の尾叉長、体重の変化に差はなく、両群の終了時の尾叉長、体重、肥満度、試験期間中の餌料効率(100・魚体重増/給餌重量)に有意差はありませんでした(図1、表1)。このことから、事業規模における週3日の隔日給餌でも、通常の毎日給餌と同じ成長をさせることができることが明らかになりました。ただ今回は、毎日群の成長も通常の事業規模で飼育される稚魚よりも低い値を示しました。この原因として、試験に使用した稚魚が一番遅い採卵日の群で飼育期間が短かったことや、飼育水温がやや低かったことなどが考えられます。隔日給餌の残餌などによって池が汚れ、寄生虫が発生することが心配されましたが、両群ともに背鰭と尻鰭の検鏡では虫は確認されませんでした。しかし、隔日給餌の場合の池の汚れ方と魚病の発生については、今後検討する必要があると思います。
    • 図1
      図1 尾叉長と体重の変化
表1 隔日給餌の概要
開始時 毎日群 隔日群
尾叉長(cm) 4.00 4.07
体重(g) 0.54 0.55
肥満度 8.28 8.19
終了時 毎日群 隔日群
尾叉長(cm) 4.42 4.40
体重(g) 0.69 0.70
肥満度 7.98 8.11
餌料効率(%) 55.5 53.0

  毎日給餌が習慣となっているサケの稚魚飼育で、隔日給餌が広まっていくのは簡単な事ではないと思います。しかし、例えば池掃除機の設備された孵化場では、前述した池の汚れを心配する必要はありません。また、人手の少ない孵化場では、給餌日数の半減による省力化の効果が得られ易いと思います。他にも水温や水量、飼育尾数、池の面積などの孵化場の条件によっても、隔日給餌の取り入れ易さや効果は変わってくると思います。こうした条件を明らかにしていけば、隔日給餌を取り入れる孵化場が増えていくと考えています。
(水産孵化場道北支場 實吉 隼人)

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