水産研究本部

試験研究は今 No.596「稚ナマコを食害するシオダマリミジンコの分離方法について」(2007年7月17日)

はじめに

  今、中国向けのナマコの需要が増え、単価が高騰し、北海道の漁獲量も急速に増加しています。こうしたことを背景にマナマコの資源を維持しようと、人工種苗生産への期待も高まり、昨年道内では16機関が取り組みました。

  マナマコの人工種苗生産で問題になるのが、稚ナマコを育成している水槽に発生する体長2ミリメートルほどの小さな甲殻類、シオダマリミジンコ(写真1)による食害です。これまではトリクロルホンという有機リン系の化合物を含む水産用医薬品マゾテンを用いて駆除していたのですが、平成18年5月の「薬事法に基づく動物用医薬品の使用規制の強化」によって稚ナマコへの使用が禁止されました。

  北海道立栽培水産試験場では、このシオダマリミジンコの稚ナマコ育成水槽での発生防除技術と、発生してしまった場合の対策について試験中です。今回は塩化カリウムを使ってのシオダマリミジンコと稚ナマコの分離方法について検討した結果を紹介します。
    • 解説
    • 写真1
    • 写真2

塩化カリウムの適正な濃度

  稚ナマコを育成する場合、写真2のように波板を並べ、ここに付着させて育成します。一方、シオダマリミジンコもこうした基質に付着して生活します。シオダマリミジンコは、密度が増えると稚ナマコを食べ始めることがわかってきました。そこで、これが増える頃に水槽を替えるなどして、稚ナマコが食べられてしまわないようにしたいのですが、シオダマリミジンコも波板に付いて一緒に移動してしまいます。稚ナマコは波板に着いたままで、シオダマリミジンコだけをここから分離できないものでしょうか。

  図1に塩化カリウムの濃度別にシオダマリミジンコと稚ナマコに与える影響を比べました。0.2パーセント濃度の塩化カリウムを用いると、稚ナマコへの影響は少なく(多くは波板に着いたままで)、シオダマリミジンコだけを落とすことができそうです。

  ただ、それでも稚ナマコの一部はシオダマリミジンコと一緒に波板から落ちてしまいます。そこで、落ちてしまった稚ナマコとシオダマリミジンコを分ける方法を考えました。
    • 図1

稚ナマコとシオダマリミジンコの篩い分け

表1に篩の目合い別のシオダマリミジンコの残存サイズ(全長)を示しました。目合いが500ミクロン以上のものでは大型のシオダマリミジンコも篩い落とすことができました。
    • 表1
図
  次に、この目合いで篩の上に残る稚ナマコのサイズを調べました(図2)。この結果、700ミクロン以上の稚ナマコであれば、篩の上に残り、シオダマリミジンコと分離できることがわかりました。

篩い分ける方法

私たち栽培水産試験場では、次のような方法をとってみました。

1)まず200リットル水槽に0.2パーセント塩化カリウム海水溶液を作ります(塩化カリウム400グラムを200リットル海水に溶かす)。

2)ここに500ミクロン目合いの網を張って、稚ナマコが付いた30センチメートル×60センチメートルの波板15枚をホルダーごと入れます(写真3)。

3)1分程度経過したら、波板をホルダーごとよく振って、この上にいるシオダマリミジンコを200リットル水槽の中に落とします。

4)シオダマリミジンコを篩い落とした後は、別個に用意した水槽にこれを収容します。

5)この作業を初めて30分程たったら、いったん波板の塩化カリウム浴を止め、網の上に残っている稚ナマコを回収します(あまり長い間塩化カリウム溶液に浸けると、内蔵を吐出する個体が増えてしまいます)。

6)上記を繰り返し、波板の上のシオダマリミジンコを分離したら、今度は元の水槽の中に残っている稚ナマコを回収します。回収時には海水をかけたり、優しく刷毛で落とすなどして排水溝に置いた細目の網に稚ナマコを集めます(写真4)。

7)集めた中にもシオダマリミジンコが入っていますので、先の200リットル水槽内で500ミクロンの網にかけて、シオダマリミジンコを篩い落とし、稚ナマコを回収します(写真5)。

(北海道立栽培水産試験場 生産技術部 貝類科長 酒井勇一 研究職員 近田靖子)
    • 写真3
    • 写真4
    • 写真5

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