水産研究本部

試験研究は今 No.598「アサリ幼生を着底させる!-アサリ種苗生産技術開発試験 IV 着底促進技術の検討-」(2007年8月16日)

はじめに

  北海道のアサリは,道東地域を中心として年間約1,500トンの漁獲があります。この資源維持のために,資源管理や稚貝移殖といった対策がとられていますが,他地域からの稚貝移殖は,寄生虫や遺伝的な問題から規制される傾向にあります。そこで,安全な放流用の稚貝を確保するためにも,北海道のアサリを用いた種苗生産技術の開発が望まれています。これまで(試験研究は今 No.549,556および585)紹介してきましたように,平成17年度まで栽培漁業総合センターでは能取湖産アサリを用いて,種苗生産技術の開発試験を行ってきました。今回は,幼生の着底促進技術開発に関して行った試験を紹介します。

アサリ幼生の着底促進技術に関する試験

  アサリ幼生は殻長約200ミクロンまで成長すると着底するまで成長が停滞し,着底後再び成長します。そこで,アサリ幼生を早く着底させることを目的として,ダウンウェリング水槽(図1,2)1)を用いて着底期幼生を飼育し,この水槽の有効性を調べました。ダウンウェリング水槽の飼育容器として,高さ15センチメートルと3センチメートルに切断した内径40センチメートルの塩ビパイプの間に,オープニング100~125ミクロンのメッシュを挟んだふるいを用いました(図2)。この飼育容器2槽を140リットルの水槽中に設置しました(図1)。この外側の水槽中に水中ポンプ設置し,飼育水を飼育容器へ上から散水するように循環させました。このダウンウェリング水槽2槽を用いて,水温別飼育試験を行いました。1槽は水槽中へヒーターを入れ,水温を28℃に設定しました(加温区)。もう1槽は室温としました(室温区)。平均殻長195.7ミクロンの着底期幼生を1つの飼育容器あたり18万個体(水槽あたり36万個体)収容しました。給餌量は,1日1回,飼育水中の餌料密度がアサリ幼生1個体当たりパブロバとキートセラスをそれぞれ4,000細胞となるように与えました。給水は,1日1換水となるように行いました。また, 200リットルパンライト水槽2槽へそれぞれ36万個体の着底期幼生を収容しました。そのうち1槽には,着底基質として容積にして50ミリリットル分の貝化石(フィッシュグリーン,株式会社グリーン・カルチャア)を底面に敷きました(フィッシュグリーン区)。もう1槽へは,着底基質を入れませんでした(対照区)。水温は室温としました。200リットルパンライト水槽は,週に2回,飼育水をすべて取り換えることにより,換水を行いました。給餌量は,1日1回,飼育水中の餌料密度がアサリ幼生1個体当たりパブロバとキートセラスをそれぞれ2,000細胞となるように与えました。着底率は,50個体程度のアサリを採集し,そのうち浮遊せずにほふくしている個体の数から算出しました。

  試験期間中の水温を図3に示しました。試験の結果,ダウンウェリング加温区では,飼育6日目には, 着底率が97.4パーセントとなりました(図4)。飼育20日目における,この試験区のアサリの平均殻長は275.4ミクロンであり,他区に比べ有意に大きくなりました(p < 0.01)(図5)。しかしながら,飼育27日目に,すべての個体が斃死しました。この原因はわかりませんでした。ダウンウェリング室温区では,飼育20日目に着底率が95.3パーセントとなりました(図4)。その後,飼育27日目には,この試験区のアサリの平均殻長が275.6ミクロンとなり,200リットルパンライト水槽で飼育されているアサリ(フィッシュグリーン区および対照区)に比べ有意に大きくなりました(p < 0.01)(図5)。フィッシュグリーン区では,飼育27日目に着底率が100パーセントとなりました(図4)。一方,対照区の着底率は,飼育27日目においても52.0パーセントでした(図4)。これらのことから,ダウンウェリング水槽を用いることにより,アサリ幼生の着底を促進することができ,同時に,成長を速められることがわかりました。
    • 図1
      図1 ダウンウェリング水槽を正面jから  見たところ
    • 図2
      図2 ダウンウェリング水槽中に設置  した飼育容器
    • 図3
      図3 着底促進技術開発試験における水温の変化
    • 図4
      図4 着底促進技術開発試験における着底率の変化
    • 図5
      図5 着底促進技術開発試験における成長

今後の課題

  今回の試験から,北海道産アサリの幼生を着底させる場合,ダウンウェリング水槽を用いることで着底を促進させることができ,結果として成長を速められることがわかりました。さらに,このまま継続飼育を行い,稚貝の飼育を行うことができました。これらのことから,ダウンウェリング水槽は,着底期以降の幼生飼育に有用であると考えられます。次回は,この水槽を用いて飼育したアサリ稚貝の標識技術について報告する予定です。

  参考文献 1)アサリ種苗生産の現場基礎技術:千葉県水産研究センター(2004)

(栽培水産試験場 生産技術部 清水 洋平) 

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