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稚内水産試験場

45年ぶりの群来

留萌市礼受地区の藻場
今年の3月18日、留萌市礼受地区から喜ばしいニュースが発信されました。それは、当日の早朝、前浜の広い範囲でニシンが群来た、というものです。
浜では地元漁業関係者や報道陣だけでなく、市民も多数駆けつけ、珍しそうに白く濁った海岸を眺めるなど、大いに沸き返っていました。 

ニシン産卵場の現状

北海道水産林務部では、平成8年から日本海ニシン資源増大対策事業を実施しており、かつてのニシン漁の賑わいをもう一度!ということで地元漁業者もその成果を期待しています。
ニシン資源の減少の背景には沿岸海況の変化、資源管理上の問題等、一要因では片づけられない多くの考えるべき事柄がありますが、近年よくいわれることは、沿岸の磯焼けの拡大や漁港周辺および沿岸道路等の開発・整備などで産卵場自体が失われつつあるのではないかということです。
ニシンは産卵のために沿岸に群来し、海藻に卵を産み付けますので、事実であるならば、それはニシン資源にとって大きな問題です。しかし、産卵藻場に関して、豊漁に沸いた昭和20年台までの過去と現在を比較できるような資料があまりない状態ではなにも言えません。

産卵藻場の調査研究

 そこで、水産試験場では、水産指導所、地元市町村および漁協等の協力を得ながら、厚田・留萌両沿岸域で、
  1. (ニシンが産卵に利用できるような)藻場、大型海藻種の分布の実態を把握すること
  2. ニシンが実際にどのような海藻に卵を産み付けているのかを確かめて、産卵場としての好適環境を明らかにすること
  3. 藻場造成技術の検討と試験を実施すること
上記を主な目的とし、調査を進めています。その中で、今回は2についての調査に関して、留萌管内でこれまで得た情報・成果をお知らせします。

特殊指令:ニシン卵ヲ発見セヨ

実はニシンの産卵場所の調査は平成8年度から始めましたが、卵が産み付けられた場所の確認はできていませんでした。平成9年度の調査結果の検討会では「見当違いの場所を探しているのでは」「努力が足りないんでないの」など厳しい意見をもらい、平成10年は是非とも結果を出そうと決意を新たにしていました。
また、留萌港内では、ニシンの卵が付着した流れ藻が見つかったこと、稚魚ネットでニシン稚魚が数匹採集されたこと、港内に位置する留萌川河口域では、海藻群落が比較的広い範囲で見られることなどから、そこにニシンが産卵に来る確率が高いと考え、場所を絞って、産卵期の3月に港内の藻場を重点的に調査しようということになりました。 

報告1:斜メ前方スガモ葉体上ニ、ニシン卵ヲ発見ス

平成10年3月17日、まずは18日予定の港内での潜水調査の下見を兼ねて、河口域の北東側につは広い範囲にあることがわかりました。
しかし、風波もでてきたのでその日はそこで作業を中止し位置する港内潮見地区の岸から胴付き長靴を着用して卵探しをしてみました。
ここはスガモ群落が拡がっており、岩盤上に所々砂がついていて沖側には溝のような凹凸もあります。
間もなく海藻調査歴20年のN主任に呼ばれ、急いで駆けつけてみると、箱メガネで海中を覗いていたその人は「そこについている白っぽいの、ニシンの卵じゃないか。」といいます。半信半疑で箱メガネを奪い、海中を覗き、目を凝らすと、おお、水深僅か0.7メートルに生育するスガモの細い葉上にぽつぽつと半透明の丸いものが数個付着していて、手に取るとニシン卵のようです。周辺を探すと、ぽつぽつは広い範囲にあることがわかりました。しかし、風波もでてきたのでその日はそこで作業を中止しました。
翌18日は、潜水班と合流し、留萌南部地区水産指導所の普及員とともに留萌漁協の指導船に乗り込み、卵発見場所へ向かいました。
ニシンの卵はスガモ群落の水深0.5メートル~2メートルの広い範囲で、スガモ1株につき数粒~2000粒付着していました。
スガモ場より深い、コンブ、フシスジモクを中心とした群落には、卵はほとんど付着していませんでした。
また、留萌港外の水深1メートル前後のスガモ場でも卵が付着している場所を発見しました。
    • こんな浅い所に産卵するなんて(留萌塩見)
    • スガモに付着したニシン卵(留萌塩見)

報告2:フシスジモク群落ニモ卵ヲ発見ス

3月31日に留萌南部水産技術普及指導所を通して、漁業者から、小平町の臼谷漁港付近で海藻にニシン卵らしきものがついているようだ、との情報があり、現場へ向かいました。
ここも水深が1メートル以内で、大型褐藻類ホンダワラの仲間であるフシスジモクを中心とした群落があり、岸の水深 0.5メートル地点から沖側へ約40メートル、岸沿いに100メートル以上の範囲で拡がっていました。卵は藻体1株あたり数粒~3000粒付着していました。
その後、留萌市三泊漁港付近でも小規模ながら、フシスジモク群落で卵が発見され、平成10年は留萌市~小平町臼谷の広い範囲でニシンの産卵を確認することができました。
    • フシスジモクのニシン卵1
    • フシスジモクのニシン卵2

緊急司令:留萌市礼受ヘ急行セヨ

平成11年3月18日の早朝、留萌市礼受の前浜が白く濁っているのを漁業者が発見、浜ではニシンが群来たのでは、と色めき立ちました。
漁業者、報道陣、見物市民で賑わうなか、たまたま打ち合わせで羽幌にいた我々も現場へ急行し、状況を確認しました。
礼受地区の岸付近はニシンの放精によって幅約1キロメートル、沖だし100メートル以上にわたって海水の色が乳白色になっていました。
また、スガモやフシスジモクなどの海草(藻)にはニシンの卵が数多く付着していました。
3月25日にニシンがどのくらいの規模で産卵をしたのかを知るために卵分布調査を行いました。ニシンの卵が確認された範囲は水深が30センチメートル~1メートル程度、群来で白く濁った所とほぼ等しいものでした。特に調査範囲とした500×100メートルに卵は多く、1平方メートルあたり平均4.3万粒、合計約216,310万粒の付着卵があると推定されました。海草(藻)の種類としては、スガモを主に、フシスジモク、スギモク、カヤモノリ等に数多く付いており、卵の付着に好適な種があることが明らかになりました。

さて、次の関心はいつ、卵がふ化するかということです。ふ化を確認するまで、我々は毎週、礼受前浜の卵を観察することにしました。卵の発達を観察しながら待つこと約1ヶ月、4月15日に夜間採集で体長1センチメートルに満たないふ化直後の仔魚を多数採集、ふ化開始が確認できました。 
    • スガモのニシン卵
    • カヤモノリのニシン卵

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