人にやさしい木の床づくり 2
技術部加工科 研究職員 澤田哲則
木は床づくりに欠かせない健康素材です。
正しくやさしい木の床をつくりましょう。
かしこく選んで快適に暮しましょう
床には多くの構法,多様な材料があり,多くのメーカーが作った製品が市場にあふれています。木質系フローリングに限らず,合成樹脂系(ビニル,リノリウムやゴムなど),コンクリート・石材系や繊維系(カーペットなど)にいたるまで,様々な素材から無数の製品が生まれては消えています。さらに施工する業者の技術が性能を大きく左右しますので,同じ床は二つとありません。このような状況の中で,用途に合った適切な床を作るのは容易なことではありません。
持ち家の取得には大きな投資を伴います。そして床は常に体に触れる重要な部分です。そのわりには,家の間取りにのみ固執してはいませんか。また,材料を吟味する場合にも,目に触れる部分にばかり注意を払い,目に見えない部分はおざなりになっていないでしょうか。
そこで,ともすれば見た目や価格だけで選択し,手抜きになりがちな“床”を,性能・機能面から見直してみましょう。
次のような事に注意しておくと安心です。
・床下には十分な換気を行ない,ナミダタケなどの腐朽菌が住み着かないようにしましょう。
・弾力性のある床構法(組み床,置き床など)を積極的に導入しましょう。
・直張り床では,仕上げ材の直張りを避け,床下地に緩衝材などの適度にやわらかな材料を敷き込みましょう。
・水まわり(浴室,脱衣所,キッチン,洗濯機回りなど)や玄関まわりは,水にぬれてもすべらない材料で仕上げましょう。
・床暖房を利用し,フローリングで仕上げる場合には,必ず「床暖房用」のものを使用しましょう。
・有害揮発成分を含まない材料を選択しましょう。
その他にも,用途や規模によって,様々な留意事項などがありますので,「参考文献」を参照されることをお薦めします。また,技術相談も受け付けておりますので,お気軽にご利用ください。
正しい木の床・再発見
皆さんの中にも,階段から落ちておしりに青アザを作ったり,ぬれた廊下で転んでタンコブやスリ傷を負った経験のある方がいらっしゃるでしょう。昔の家屋や学校にあった階段や廊下,縁側などは,ギシギシときしむような木づくりのものが大半でした。そのおかげで大事にいたらずにすんだように思います。
床が“たわむ”ということには重要な意味があります。たわむことによって適度なやわらかさが得られます。それがケガを軽くしてくれます。また,かかとや足首,膝,腰などにかかる衝撃を軽減し,歩行感の向上や,疲労感の軽減にもつながります。現在多く見られる木の床,すなわち仕上げ材にのみ木を用いた床にも,このイメージだけは根強く残っています。「木の床はやわらかい。木の床はやさしい。木の床だから安心。」といったものです。ところが外見だけの木の床は,必ずしも安心ではない場合が多いのです。
コンクリートスラブに直張りされたフローリングの床は,硬さや弾力性の面からはコンクリートそのものと変わりがありません。木の床本来の弾力性や,やわらかさを得るためには,組み床や置き床といった下地組みにも配慮する必要があります。
表面塗装を幾重にも塗り重ね,なかば鏡のような表面になったものは,いくら中身が木であっても,足ざわりやすべりはプラスチックとなり,場合によっては非常にすべりやすくなります。木の床は,できれば塗装も最小限におさえ,こまめに手入れをするのが理想的です。昔は無垢板を,ぬか袋でツヤが出るまで磨き込んで風合いを出していたものです。
木は素地を生かして,たわませてやることで,はじめて本来の「木の床」のイメージを実現してくれるということを,お忘れなく。
これからの床
現在,床の研究は,「健康」,「快適」,「安全」,「効率」をキーワードにして進んでいます。
シックハウス症候群(建材から出る有害な揮発成分によって,頭痛や吐き気,発疹などの症状が出る)の増加に伴って健康住宅の研究が進み,木材そのものの有効性が見直されています。床をフローリングで仕上げることによって,ぜんそくやアトピー性皮膚炎,化学物質過敏症が軽減されるといった症例が多く報告されています。木はまさに健康素材といえるでしょう。しかしながら,木そのものは健康素材であっても,木質系建材全体が健康だとはいえないのが現状です。いろいろな化学製品,例えば接着剤や防カビ剤,塗料などを用いて製品が作られているからです。木材は,上の4つのキーワードを同時に満足させることのできる,本当に数少ない貴重な素材です。この重要な特性を十分に生かして,次世代の床材を開発する視点が必要です。
主な参考文献・資料などの一覧
著者 (編者) |
書名 |
発行所,掲載誌名 |
発行年 |
小野英哲,吉岡丹 | 体育館の床の弾力性に関する研究(その5) | 日本建築学会論文報告集 第227号 | 1975 |
小野英哲,三上貴正,渡辺博司 | 安全性からみた学校体育館床のかたさに関する研究 | 日本建築学会論文報告集 第321号 | 1982 |
小野英哲 | 安全性・快適性からみたスポーツ・サーフェイスのかたさ,すべりの評価について | Japanese Journal of Sports Sciences 第6巻第9号 | 1987 |
日本木材学会 | 住まいと木材 ~居住環境を考える~ | 海青社 | 1990 |
小野英哲ほか | 実践・床の設計手法 | 建築技術 第486号 | 1991 |
澤田哲則 | 体育館床暖房システムの開発 | 林産試だより 1992年11月号 | 1992 |
澤田哲則 | 安全で快適な体育館のために | 林産試だより 1993年5月号 | 1993 |
小野英哲 | 「滑る床」をなくせ | 日経アーキテクチャー 11月21日号 | 1994 |
小野英哲 | 床の新たな可能性を探る | 建築文化 11月号 臨時増刊号 | 1995 |
清野新一 | 床暖房用フローリングの性能評価法 | 木材工業 50巻 12号 | 1995 |
北海道立林産試験場 | 木質系床(その1) -床の安全性と快適性- | 林産試だより 1996年1月号 | 1996 |
北海道立寒地住宅都市研究所 | 住まいづくりの基礎知識 | (財)北海道建築指導センター | 1996 |
澤田哲則ほか | ゴムチップパネル多機能大規模温水床暖房システムの現況 | 第12回 寒地技術シンポジウム論文・報告集 | 1996 |
澤田哲則 | 安全性と居住性を備えた床仕様の開発 | 林産試だより 1997年1月号 | 1997 |
澤田哲則 | 人にやさしい床づくり | 林産試だより 1997年10月号 | 1997 |