森林研究本部へ

林業試験場

北海道林業試験場研究報告-第61号-

PDFファイルで閲覧ができます

バックナンバー



 

第61号(令和6年3月発行)

一括ダウンロード

第61号全編(PDF:9.3MB)

目次ごとにダウンロード

林冠木の開葉フェノロジーがブナの更新に及ぼす影響(PDF:966KB)
今 博計・長坂晶子・小山浩正
P1~9
ブナ稚樹は,ブナ以外の広葉樹の林冠下に分布が集中することがあり,この原因として林冠構成種の開葉時期の違いが関わっていると指摘されている。そこで本研究では,北海道南西部の3カ所のブナ林において,ブナの更新を上層の状態と関連づけて調べた。林内は林冠の状態からブナパッチ,ブナ以外の広葉樹パッチ(以後、広葉樹パッチ),ギャップの3タイプに区分した。広葉樹パッチは日和山と宮越ではイタヤカエデとホオノキが,歌才ではミズナラが優占していた。ブナ下層木の個体数はパッチ間で有意な差があり,広葉樹パッチで最も多く,ブナパッチとギャップで少なかった。広葉樹パッチでの胸高直径階別本数分布は,ブナが他樹種の林冠下で更新していることを示していた。一方,イタヤカエデとホオノキはいくつかのギャップを修復していた。ササの現存量はギャップが最も多く,ササの現存量とササ層の下に出現するブナ稚樹の本数との間には,有意な負の関係があった。林冠下に植栽したブナ苗木のシュート伸長量は,ホオノキの林冠下が最大であり,次いでイタヤカエデの林冠下,ブナ林冠下が最小だった。これらの結果は,渡島半島のブナ林では,イタヤカエデ,ホオノキ,ミズナラなどがギャップで更新し,やがてその林冠下で更新したブナに置き換わっている可能性を示していた。

北海道東部太平洋側地域におけるトドマツ優良個体の新規選抜(PDF:7.4MB)
石塚 航・成田あゆ・今 博計・米澤美咲・来田和人・中田了五・加藤一隆・生方正俊・花岡 創
P11~21
北海道の主要造林樹種であるトドマツの育種においては,第二世代を担う優良個体の前方選抜が進み,種苗を配布するそれぞれの地域にて第二世代精英樹候補木が拡充されている。その中で唯一,評価の適齢期に達するも未だ検定・選抜が実施されていなかった,北海道東部太平洋側地域に位置するトドマツ次代検定林(豊頃町)を対象として,40年生時の成長特性(幹材積)と43年生時の材質特性(応力波伝播速度,ピロディン貫入量)の調査を行った。続いて,これらの形質に関する遺伝的特性を評価し,成長と材質特性に優れ,かつ,通直性と遺伝的多様性について劣らないよう,総合的な選抜基準を設けて選抜を実施した。その結果,19個体が選抜基準を満たした。外見上の問題がないことの現地確認を行った後,これら全個体を優良木として指定した。選抜個体において期待される改良効果は幹材積で24.1%,応力波伝播速度で1.6%,ピロディン貫入量で1.8%となり,当該地域の優良種苗生産に貢献する第二世代としての活用が期待できる。

保持林業実証実験地における伐採前後の土壌環境の変化(PDF:1.8MB)
長坂晶子・山田健四・速水将人・長坂 有
P23~30
森林の伐採は,森林内の窒素循環だけでなく,渓流への窒素流出など,集水域内の物質循環にも大きな影響を与える。保持林業の導入は,伐採による窒素循環に対するインパクトを緩和する効果が期待される。筆者らは,森林土壌中の無機態窒素に着目し,北海道において実施された保持林業実証実験地において,施業前後の土壌中の窒素量を測定し,施業の有無や施業方法の違いによって窒素量がどの程度異なるのかデータ蓄積を図った。リター層下の鉱質土壌の全炭素量,全窒素量の分析から,有機態も含めた窒素全体の量は施業前後で変化していなかったが,無機態窒素を分析したところ,施業後,地温の上昇と併せてアンモニア態窒素(NH4+N)量の減少と硝酸態窒素(NO3N)量の増加が認められ,鉱質土壌に貯留されている有機態窒素の無機化から硝化に至る過程が速やかに進行していることが示唆された。保持木の有無や多寡による反応の違いは見られず,表層土壌の窒素動態という観点からは保持林業の特徴は認められなかった。