法人本部

第30話 魚をおいしく食べるための技術開発~魚の骨とにおい

魚をおいしく食べるための技術開発~魚の骨とにおい~(H27.10)

道総研食品加工研究センター    佐々木 茂文   


世界では、欧米やアジア諸国などの世界的な魚食ブームにより、年々水産物の消費量が増えています。ところが日本国内では魚の消費量が急速に減少し、平成18年度には肉類に抜かれてしまい、その後も日本人の魚離れは進行しています。なぜ、魚を食べなくなったのでしょう?魚が嫌われる原因は「においが嫌い(特に若年層)」、「骨がある」、「食べるのが面倒」、「調理に手間(下処理、調理、後始末)がかかること」などがあげられています。一方で、魚の持つ健康機能性や栄養性への関心が高く、「もっと食べるようにしたい」、「健康に良い」、「子どもにもっと食べさせたい」など消費者が魚に対して良いイメージを強く持っていることが、アンケート調査の結果から分かっています。実際に食べやすく、魚臭さもない刺身や寿司は子どもたちにも人気です。

四季折々に北海道各地で水揚げされる魚、そんな魚たちの持つ素材の美味しさを消費者に直に味わってもらうためには、魚をどのように加工すると良いのでしょうか?

例えば、初秋に道東で水揚げされたサンマはどうでしょう。炭火で焼いているところを想像しただけでよだれが出てきそうになります。ところが、我が家でも妻は「さばいて焼くのが面倒。煙も出るし、後始末が大変。」と言い、娘は「サンマ臭いし、骨があるから嫌い。」と言う始末です。高鮮度のサンマが容易に入手できる北海道に住む我々でもこんな状況ですので、首都圏など生産地から遠い地域では、より一層魚離れが進んでも不思議ではありません。そこで「骨ごと食べられ、魚臭さがない加工品であれば、魚を食べてもらえるのでは?」と考え、魚の骨の軟化と魚のにおいを低減させる技術開発に取り組みはじめたところです。

まず、骨を軟らかくする技術です。サバ、サンマやサケの缶詰に入っている骨は気にすることなく食べられます。高圧加熱(レトルト)処理をすると急激に軟らかくなるためです。しかしながら、魚肉も加熱変性してしまうためボソボソした食感となり、加熱しすぎた独特な魚のにおいが発生します。骨だけを高圧加熱したいところですが、その様な技術はありません。そこで、肉質の水分を少なくする、油で揚げる、あるいは魚の表面を焼くなどの前処理を行うことによって、高圧加熱による肉質の変化をできる限り抑え、骨を気にすることなく食べられる焼き魚の製造技術の開発を進めています。また、このレトルト処理は、芽胞菌(がほうきん)の殺菌ができることから、骨が軟らかくなることだけでなく、常温で長期保存が可能な製品を製造できるというメリットもあります。

次は「におい(魚臭)」を抑える技術です。そもそも、「嫌われるにおい」とは一体何でしょうか?新鮮な魚には、それぞれの魚種によって独特の香りを持っていますが、その香りはそれほど強いものではありません。市販されているホッケやソウハチカレイの一夜干しを分析したところ、魚の鮮度が低下するのに伴って生じるトリメチルアミンなどのアミン系の成分(生臭さの主成分)は、ほとんど検出されませんでしたが、加工や保存中に新たにアルデヒト成分が生じていることがわかりました。このアルデヒド成分は、魚に含まれる油が酸化することによって生じる「油焼け」のにおいで、これが、いわゆる「嫌われるにおい」であると考えています。私たちは、この魚の脂質酸化によって生じるアルデヒド成分が加工処理や保存中に生じる要因を解明して、可能な限りアルデヒド成分の生成(脂質酸化)を抑制する加工方法の技術開発に取り組んでいきます。

近い将来、「美味しく、食べやすい水産物加工品」を市場に提供して、豊富で高品質な道産水産物の市場競争力の強化と消費拡大につなげていきたいと考えています。

    ※写真(左):焼きサバ
    ※写真(右上・右下):におい成分の分析・同定を行う「ガスクロマトグラフ質量分析計」

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