法人本部

データで見る北海道の今と未来

エネルギー4 太陽の「熱」、使わないなんてモッタイナイ!?

はじめに

地球温暖化等の環境問題が取り沙汰され、「再生可能エネルギー」の利活用が叫ばれ始めて久しくなりました。一方で、近年では環境問題だけでなく円安や戦争の影響で化石燃料の高騰が続き、家計の光熱費削減やエネルギー安全保障の面からも再生可能エネルギーが注目されています。さまざまな再生可能エネルギーがある中で、私たちが最初にイメージするものの一つが太陽光発電ではないでしょうか。しかし、太陽がもたらすエネルギーは電気だけではありません。ここでは太陽の「熱」利用についてご紹介します。

熱が必要な北海道だからこそ太陽熱!

北海道で一世帯が一年間に暖房で消費するエネルギー量は、全国平均の約4倍 1) にもなります(図1)。暖房の大部分では輸入した化石燃料が使われているため、排出する二酸化炭素量も全国平均の3倍以上 1) と大きく上回っています。しかし、それは見方を変えれば暖房に再生可能エネルギーを利用していくことで化石燃料の使用量を削減する余地が大いにあるということです。そこで道総研が注目しているエネルギーの一つが、「太陽がもたらす熱(太陽熱)」なのです。

図1 一世帯・一年間あたりの用途別の エネルギー消費量(左)と二酸化炭素排出量(右)
図1 一世帯・一年間あたりの用途別の エネルギー消費量(左)と二酸化炭素排出量(右)[参考文献1)より作成]

太陽熱利用の特徴

太陽熱利用は集熱器という装置を使って太陽の熱を集め、暖房や給湯に利用する方法が一般的です。集熱器には大きく分けて、熱の損失が少ないけれども比較的高価な「真空管型」と、熱の損失が多いけれども比較的安価な「平板型」の二つのタイプがあります(写真1)。

太陽熱利用のメリットの一つが「効率の良さ」です。一般的に、太陽光発電は日射のエネルギーの15~20% 2) 程度までしか利用できませんが、太陽熱利用では40~60% 3) 程度まで利用できます。北海道は熱そのものを多く必要とする地域だからこそ、発電だけではなく熱利用も併用することで、太陽のエネルギーをより効果的に利用できる可能性があるのです。

写真1 様々なタイプの集熱器(左右:真空管型、中央:平板型)
写真1 様々なタイプの集熱器(左右:真空管型、中央:平板型)

道総研の取組

太陽熱は効率良く利用できる再生可能エネルギーにも関わらず、これまで北海道ではあまり普及してきませんでした。これは、積雪が太陽熱利用の大きな弱点になるためだと考えられます。冬、集熱器に雪が積もると太陽光が当たらず、熱を集めることができません。肝心の冬に熱を集められないとなれば、普及が進まないのは当然でしょう。そこで、エネルギー・環境・地質研究所では北海道に適した太陽熱の有効利用方法について検討しています。

エネルギー・環境・地質研究所では、北海道でどれほどの太陽熱を実際に集めることができるのか、現在市販されている複数のタイプの集熱器を庁舎の屋上に設置して年間のデータを取り、比較を行いました 4, 5) 。この結果、集熱効率やコストパフォーマンスの面で、北海道では季節を問わず平板型が最も適しているという結果が得られました(表1)。一方で、冬期は積雪の影響で集熱量が大きく減少することも再認識する結果となりました。これらの結果から、積雪の影響を受けない春期~秋期のうちに熱を集め、冬期までその熱を蓄えて冬期に利用する「季節間蓄熱」が太陽熱の有効利用方法の一つになると考え、現在、検討を進めています。

表1 期間別の各集熱器の設置面積あたりの集熱効率、本体価格あたりの集熱量
表1 期間別の各集熱器の設置面積あたりの集熱効率、本体価格あたりの集熱量(R5年度・道総研調べ)
   ※各期間で最も値が優れるものを太字、特に効率の良い夏期~秋期を赤字で表記

これから

この研究では、冬期における集熱器の興味深い挙動も発見することができました。具体的に言うと、平板型集熱器は真空管型集熱器と比べ積雪の影響が小さい傾向が見られたのです(写真2)。これは、平板型の弱点とも言える集熱面からの熱放出によって本体表面の雪が溶け、凹凸のない滑らかな表面と相まって雪が滑り落ちたためと推測しています。この新たに得られた知見を活かし、冬期にも効率的に集熱できる手法についての研究を進めていく予定です。

写真2 集熱器への積雪の様子(2024年1月23日撮影)
写真2 集熱器への積雪の様子(2024年1月23日撮影)

 

参考文献

1)環境省『令和4年度 家庭部門のCO2排出実態統計調査』

2)資源エネルギー庁HP(https://www.enecho.meti.go.jp/about/special/johoteikyo/taiyoukouhatuden2017.html)

3)資源エネルギー庁HP(https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/attaka_eco/df/)

4)多奈田紘希、保科秀夫、林田淳、白土博康,2024エネ環地研成果発表会発表資料集,18,2024.5

5)多奈田紘希、保科秀夫、林田淳、白土博康,空気調和・衛生工学会北海道支部第59回学術講演論文集,57-58,2025.3

 

(多奈田紘希 産業技術環境研究本部 エネルギー・環境・地質研究所 資源エネルギー部)