自然環境2 サーモン養殖に適した涼しさはいつまで続くのか?
はじめに
サーモンは回転寿司で大人から子供まで人気のあるネタです。回転寿司に並ぶサーモンの大部分はチリやノルウェーで養殖された輸入品ですが、北海道沿岸でも小規模なサーモン養殖の試験が行われていることをご存じでしょうか?国内のサーモン養殖には、種苗や餌料にかかるコストが高いこと、養殖に適した冷涼で静穏な飼育環境の確保が難しいことなど多くの課題があります。
道総研水産研究本部では、これらの課題を解決するための様々な技術開発に挑戦しています。今回は、現時点でサーモン養殖が行われている北海道太平洋沿岸の特定の地点に着目して、地球温暖化の影響による海面水温の上昇も想定されるなかで、サーモン養殖が可能な適水温期間(5~20℃)の将来予測を行いました。
計算方法
北海道太平洋沿岸における特定の地点について、以下の計算を行いました
- まずは、公益社団法人北海道栽培漁業振興公社より提供された2006~2015年の水温データを用いて旬別水温の10年平均値を計算して、この値を基準水温としました。
- 次に、気象庁気象研究所が計算した海面水温の将来予測値(Yukimoto et al. 2012)を使用しました。具体的には、温暖化ガス排出量の最も低いシナリオ*(RCP2.6)と最も高いシナリオ*(RCP8.5)の値を用いて、特定の地点が含まれる格子について2006~2015年の月平均値を算出しました。同様に2041~2050年、2081~2090年の月平均値をシナリオ毎に求め、2006~2015年の平均値との偏差を月ごと計算しました。
- 最後に、旬ごとの基準水温に上記でもとめた月ごとの偏差を加えて将来予測値を算出しました。このようにして算出した各年代の旬ごとの将来予測値を用いて、成長停滞が起こる5℃以下および生存率が低下する20℃以上になる確率を月ごとに計算しました。
*代表濃度経路シナリオ(Representative Concentration Pathways):人間活動に伴う将来の温室効果ガス等の濃度を想定したもの。このシナリオを気候モデルにして将来の気温や海面水温を予測している。
予測結果
基準水温:2006~2015年の結果を見てみると、1~3月はほぼ100%の確率で5℃以下になっており、4月でも約50%の確率で5℃以下になることがわかりました(図)。一方、20℃以上になる確率は8~9月にかけて最大で21%程度でした。よって、この地点では8~9月に20℃を超える年が5年に1度ほどありましたが、この年代の5~11月はサーモン養殖が可能な適水温範囲(5~20℃)にあったと考えられます。
RCP2.6の場合:続いて温暖化ガス排出量の最も低いRCP2.6に基づく将来予測の結果を見てみましょう。2041~2050年および2081~2090年についても5℃以下になる確率や20℃以上になる確率は2006~2015年と大きな変化はありませんでした。RCP2.6では5~11月の期間はサーモン養殖でできる状態が維持されているようです。
RCP8.5の場合:最後にRCP8.5に基づく将来予測の結果を見てみましょう。5℃以下になる確率は2041~2050年の12月に0%に、2081~2090年の1月には11%まで低下しました。一方、20℃を超える確率は2041~2050年の8~9月に40~58%と上昇して、2081~2090年の7月には50%、8~9月には90%以上とさらに高くなりました。RCP8.5では、冬季の水温が上昇する利点がある一方で、夏季は高い確率で20℃を上回るため、サーモンが十分に成長できる期間を確保することは難しくなりそうです。

今後の取り組み
将来予測値の精度は今後も良くなっていくと期待されます。アップデートされた将来予測データを用いてサーモン養殖の適期をこれからも示していきたいと思います。
参考資料
Yukimoto S, Adachi Y, Hosaka M, Sakami T, Yoshimura H, Hirabara T, Tanaka TY, Shindo E, Tsujino H, Deushi M, Mizuta R, Yabu S, Obata A, Nakano H, Koshiro T, Ose T, Kitoh A, 2012: A new global climate model of the Meteorological Research Institute: MRI-CGCM3 —Model description and Basic Performance—. J. Meteor. Soc. Japan, 90A,23−64, doi:10.2151/jmsj.2012-A02.
(品田晃良 水産研究本部 中央水産試験場 資源管理部)