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データで見る北海道の今と未来

自然環境4 UAV-AIを活用したトドマツ人工林の資源量推定技術開発

はじめに

北海道の森林のうち人工林面積は147万 haであり、うち収穫時期を迎えた林齢41年生以上のものが約72%存在しています。道内では毎年、9千〜1万 haの人工林が収穫されていますが、今後、収穫対象となる人工林の割合は増加する見込みです。
森林に生育する全ての立木伐採し収穫をする作業を皆伐(かいばつ)と言います。皆伐が行われる場合には、事前に全ての立木について収穫調査と呼ばれる資源量把握のための作業が行われ、立木幹部の体積合計である幹材積量が資源量(予定される収穫量)として算定されます。現在、この調査は人力で行われていますが、リモートセンシング技術を活用した方法についても普及が進められています。ここでは、人工林における収穫調査の概要と課題について概説するとともに、道総研が取り組んでいる「リモートセンシング技術を活用した人工林資源量の把握技術の開発」について紹介します。

人工林の収穫調査における課題

人工林か天然生林かにかかわらず、森林の管理は「林小班(りんしょうはん)」を単位に行われます。これは住宅地の区割りのようなもので、一区画が1 ha~20数 ha程度の広さです(図1)。人工林の収穫調査では、皆伐対象とする林小班に生育する全ての植栽木(立木)の直径を1本1本、人力で測定します。熟練者ならば、1人で1日、1 haの調査を行うことができますが、林小班の面積が広くなると、それだけ調査日数または労働者数が必要になります。また、北海道の森林の林床にはチシマザサやクマイザサなどが繁茂する場合も多く、そのような条件では分け入るための労力がかかり、調査効率が低下します(写真)。さらに、労働者不足は林業の世界でも深刻です。これらのことから、先端技術を活用し、省力かつ安全に資源量を把握するための技術開発が望まれています。そこで道総研林業試験場では工業試験場とともに、リモートセンシング技術を活用した人工林の資源量調査技術を開発しました。開発においては北海道の人工林で最も面積の広い、トドマツ人工林について最初に取り組んでおり、その成果を次に説明します。

図1
図1 空知管内における林小班の例
白線で囲まれた一つの区画それぞれが林小班
白文字は林小班面積(ha)
林小班区画:北海道水産林務部オープンデータ
衛星画像:GoogleMapsSatelite
写真1
写真 収穫調査の様子
繁茂するササなどに分け入って調査しています

UAVとAIを活用したトドマツ人工林資源量調査技術について

リモートセンシング技術にはドローンとも呼ばれるUAVのほか、人工衛星などいくつかのデータ取得方法がありますが、林小班のように数haの人工林を調査するには、UAVが適していると考えました。前述のように、林小班における全ての植栽木の識別と直径の測定を調査者が行っていますが、これらの作業を軽減するために、UAVとAIにより行うことができる技術を開発しました。以下に調査手順を説明します。
まず、UAVを用いて対象とする林小班全体を上空から撮影します(図2 ①)。その後、撮影画像をコンピュータ上で処理し、森林の三次元情報を復元します。その後、全ての木の樹高情報と地面から鉛直方向に傾きのない画像を作ります(図2 ②)。この画像について、植栽木のトドマツ1本ごと、枝や葉が茂っている部分である樹冠(じゅかん)を他の樹種から区別して認識するためのAI(単木樹冠認識AI)に解析させます。AIが認識したトドマツ1本ごとの樹冠(図2-②、青線で囲まれた範囲)の面積から、各トドマツの直径を推定するための換算式を用いて直径を推定します(図2 ③)。

図2
図2 UAV-AI 技術によるトドマツ人工林の資源量調査の概要

推定した各トドマツの直径と樹高からそれぞれの幹材積量を計算できるので、それらを積算して林小班全体の幹材積量、すなわちトドマツ人工林の資源量を計算することができます。現在のところUAVの撮影条件が良好ならば(図3 ③)、1本の直径の誤差が約4.4 cmで、林小班全体での幹材積量推定の誤差は7%程度です。これらの技術は、現在トドマツとカラマツ人工林を対象に実用化を図っており、改善を進めています。また、スギ人工林についても同様に技術開発を行っています。

成果の波及効果と将来展望

上記の成果により、人手による人工林の収穫調査の代替として、省力かつ安全に収穫(資源)量の把握が可能になり、軽労化にも貢献できます。UAVは最近では写真撮影用の機種であれば数十万円で購入できることから、導入している林業事業体も多く、成果の普及(実用化)も期待できます。現在、森林管理者等が操作・計算できるシステム作りのため、民間への社会実装を行っています。

参考資料
竹内史郎(2021)UAVとAIを活用した人工林資源推定-トドマツ人工林における単木計測手法の開発-.グリーントピックス,No.63

(竹内史郎・滝谷美香 森林研究本部 林業試験場 森林経営部)