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自然環境5 捕獲情報を見える化する~「エゾシカ現況マップ」の開発~

はじめに

近年、分布の拡大や個体数の増加によって人とエゾシカとのあつれきが深刻化しています。エゾシカ対策を効果的・効率的に実行するためには、エゾシカに関する様々な情報を集約し、地図上で可視化することが重要です。特に捕獲に関する情報は、生息密度の指標となるSPUE(捕獲努力量当たりの目撃数)や捕獲効率の指標となるCPUE(捕獲努力量当たりの捕獲数)を算出でき、長期にわたるデータの蓄積があるため、対策の適地選定や効果検証をするのに有効な情報となります。エネルギー・環境・地質研究所では、エゾシカの捕獲情報を地図化し、時系列の変化を表示することが可能な「エゾシカ現況マップ(捕獲情報/年度別)」(以下、現況マップ)を開発し、2025年5月からホームページで公開しています。今回は現況マップの機能と現況マップから得られる情報についてご紹介します。

現況マップとは?

現況マップには、2015~2022年度における5㎞メッシュ別の捕獲数やメス捕獲割合、狩猟SPUE、狩猟CPUE、狩猟努力量、許可SPUE、許可CPUE、許可努力量などの捕獲情報が搭載されています(表1)。現況マップは、①レイヤーリスト、②ベースマップリスト、③メインマップ、④インフォグラフィックで構成され、レイヤーリストとベースマップリストからメインマップに表示させるレイヤーと背景地図を選択します(図1)。また、メインマップには、タイムスライダーや場所フィルターなどのショートカット機能が搭載されています。タイムスライダーを利用すると、地図の時系列変化をアニメーションで表示できる(図2)ほか、場所フィルターを利用すると、選択した振興局や市町村、メッシュに関する捕獲情報の時系列グラフをインフォグラフィックに表示することができます。なお、現況マップの詳細な操作方法については、エネルギー・環境・地質研究所のホームページで公開している操作マニュアルをご覧ください。

表1 現況マップに搭載されている捕獲情報
    表1 現況マップに搭載されている捕獲情報
図1 エゾシカ現況マップ(捕獲情報/年度別)の基本画面
図1 エゾシカ現況マップ(捕獲情報/年度別)の基本画面
図2 タイムスライダーを使って表示した狩猟SPUE(生息密度の指標)の時系列変化 width=
図2 タイムスライダーを使って表示した狩猟SPUE(生息密度の指標)の時系列変化

現況マップを使ってわかること

では、現況マップを使ってどのようなエゾシカの情報を得ることができるのでしょうか。現況マップによって表示させた一例から考えてみましょう。図3は石狩振興局を選択した際の時系列グラフを示しています。グラフから狩猟捕獲数よりも許可捕獲数の割合が高く、許可努力量(許可を受けた方の捕獲実施延べ日数)は一貫して増加していることがわかります。石狩振興局の捕獲対策は狩猟よりも許可捕獲に依存しており、その傾向は近年強くなっていることが示唆されます。また、狩猟SPUE(生息密度の指標)は、一度低下した後、再増加しており、捕獲数は伸びているものの、個体数を減少させるまでには至っていないことが示唆されます。石狩振興局のメス捕獲割合は、50%未満で全道平均(約55%)より低いため、個体数を減少させるには、捕獲数を増やすだけでなく、個体数の削減効果が大きいメスジカの捕獲割合を上昇させることが効率的だと考えられます。このように現況マップを活用することで、エゾシカに関する様々な情報を得たうえで、効率的な対策の検討につなげることができます。

図3 現況マップで表示した石狩振興局における捕獲情報の時系列グラフ
図3 現況マップで表示した石狩振興局における捕獲情報の時系列グラフ

今後の展望

エゾシカは季節移動し、夏と冬で異なる生息地を利用することが知られています。このため、夏に目撃が多い場所で冬に捕獲などの対策を実施しようとしても、冬には別の場所へ移動をして効果的な対策ができないこともあります。したがって、月別の捕獲情報は、対策を「どの時期に」実施すべきなのか検討する際、大変重要な情報となります。現在の現況マップは経年的な変化を表示できるものの、季節的な変化を表示する機能がないため、今後、月別の捕獲情報をわかりやすく表示させることが可能な「エゾシカ現況マップ(捕獲情報/月別)」を開発し、より効果的・効率的なエゾシカ対策の推進に貢献したいと考えています。

稲富佳洋 産業技術環境研究本部 エネルギー・環境・地質研究所 自然環境部