法人本部

データで見る北海道の今と未来

食2 DNA診断でおいしい黒毛和牛つくる

はじめに

図1 北海道を代表する道産黒毛和種たね牛「勝早桜5」
図1 北海道を代表する道産黒毛和種たね牛「勝早桜5」

皆さん、焼肉はお好きでしょうか?カルビやロース、豚トロや鶏モモ肉、ラムなどお肉はいろいろありますが、和牛のお肉があると嬉しい人は多いのではないでしょうか。

北海道は、黒毛和牛生産頭数が全国第3位の和牛大国(表1)であり、全国に北海道産和牛の子牛が供給されています。全国で「●●和牛」や「●●ビーフ」といった各地のブランド牛の出身地は、実は北海道だったりすることも多いのです。

しかし、近年の様々な物価高騰や人件費の高騰、円安などにより、黒毛和牛生産農家は非常に厳しい経営状況に置かれています。2022年は、6年前の2016年と比べて、販売価格は20%低下した一方、生産の費用は34%も上昇し、生産にかかる労働時間も4%増えています(農林水産省HP統計情報畜産物生産費統計令和4年肉用牛生産費 より)。

表1 都道府県別の黒毛和種の飼養頭数トップ3
表1 都道府県別の黒毛和種の飼養頭数トップ3
(家畜改良センターHP より)

育種価

そのため、黒毛和牛生産農家は、生まれつき肉質がよく、肉量も多い子牛が生まれ、高く売れてほしいと願っています。

生まれつき肉質がよく、肉量も多い子牛とは、肉質肉量の能力が高い父(=たね牛、図1)と母から生まれます(図2)。しかし、この能力を知るために父や母自身をお肉にしてしまってはもう子牛が生まれません。子牛をお肉にし、その枝肉の成績から両親の遺伝的な能力を統計的に予測することが可能です。この遺伝的な能力を「育種価」といいます。

育種価を知ることで、その両親の組み合わせの子牛が生まれつき肉質がよく肉量が多いかを予測できるのです。

図2 (左)肉量肉質の能力が高い両親の子牛枝肉、(右)肉量肉質の能力が低い両親の子牛枝肉
図2 (左)肉量肉質の能力が高い両親の子牛枝肉、
     (右)肉量肉質の能力が低い両親の子牛枝肉
左は、サシ(牛肉の赤身肉の中に白い脂肪が網の目のように入っている状態)
がきれいに入っていて、赤身肉の量も多く、高く販売される。

育種価の問題点

黒毛和牛は生まれてから約2年後に子牛を産めるようになります。その子牛がお肉になるのは約2年半後ほどです。親の育種価(肉質肉量の能力)を知るには、牛が生まれてから最短で4年は待たなければなりませんでした(図3)。

図3 従来の育種価とゲノム育種価の違い
図3 従来の育種価とゲノム育種価の違い

DNA診断技術の活用

そこで私たちは、育種価をDNAで診断する技術(北海道ゲノム育種価システム)を開発しました。これまで4年かかっていた育種価の判明が数ヶ月という短期間で予測することができるようになりました(図4)。

図4 北海道産の黒毛和種たね牛の脂肪交雑能力
図4 北海道産の黒毛和種たね牛の脂肪交雑能力
   (=霜降りにする能力)

北海道ゲノム育種価システムの効果

北海道ゲノム育種価システムの活用により育種価を短期間で判断できるようになったため、北海道で生まれた黒毛和種のたね牛は肉質が近年飛躍的に向上しました(図4)。そのため、北海道産たね牛を父に持つ子牛は非常に肉質が良くなってきています。

さらにこの結果を受け、道内の黒毛和牛生産農家が、能力の高い北海道産たね牛から生まれた雌の子牛を、自分の農場に将来の母牛として残す割合が12年前(2010年)の約15倍(1.0→15.1%)に急増しています。このことは、道内生産者が北海道産たね牛と、そのたね牛を父に持つ娘牛に強い期待を寄せていることを意味します。

将来に向けて

北海道ゲノム育種価システムにより、これまでよりも精度が高く、より早く、能力の高い牛を見つけられるようになりました。

第13回全国和牛能力共進会が令和9年8月末に北海道で開催されます。この大会は「和牛のオリンピック」と呼ばれ、この大会での勝利はその産地の知名度向上や、生産物の流通価格の向上が期待できるなど、非常に重要な実績となります。北海道代表牛やその両親を選定する場面で、ここ近年は北海道ゲノム育種価システムも活用されており、北海道が一丸となって勝利を目指しているところです。

北海道の黒毛和牛は、どの牛を育てても、しっかり大きくなり、肉質よくおいしいお肉に仕上がる、ハズレのない牛!という「和牛大国」としての地位を私たちはさらに強化していきます。

(鈴木 洋美 農業研究本部 畜産試験場 肉牛研究部)