水産研究本部

試験研究は今 No.38「ミズダコの保育場造成技術開発調査」(1990年7月27日)

試験研究は今 No.38「ミズダコの保育場造成技術開発調査」(1990年7月27日)

ミズダコ保育場造成技術開発調査 -平成元年度水産試験研究プラザの要望に応えて-

    • ふ化後120日のミズダコ
  ミズダコについての試験研究は昭和30年代に開始されました。当初はその生態がほとんど判らない状態でしたが、今では標識放流や測定調査によって、移動・分布や成長、食性、繁殖などの一般的な生態が明らかになっています。一方、50年代になると、積極的な資源増大を図る目的で、人工産卵礁や稚ダコ保育礁の効果調査が始まり、増殖場の条件などが判ってきました。

  しかし、詳しい漁獲統計や測定データが乏しく、現在の資源量がどれだけあり、今後の漁模様がどうなるのかといった資源に係わる研究は立ち遅れていました。また、孵化後の浮遊幼生の生態や産卵場と着底場へのつながりがわかっていません。そこで、これらを解決するため、今年度から五か年計画で「ミズダコ保育場造成技術開発調査」がスタートしました。

  この調査は、ミズダコの資源評価と保育場造成指針の策定を目標に、本年度は、まず資源調査の体制固めを目指します。

  資源量を推定する方法としては、直接数えたり、魚探を使ったり、密度調査や漁獲試験による方法などいろいろありますが、ミズダコでは漁業を通して推定することを基本に漁獲統計と生物統計の収集を始めました。漁獲量が魚体の大きさや漁業種類による規格・銘柄区分によって整理されていると、場合によっては、それだけで年齢別の漁獲尾数を推定できます。また、操業の程度を表す出漁隻数や漁具数なども非常に大切な資料です。詳細であるほど資源量推定の精度は高まりますが、実際にこれらを得るには、市場の受け入れ伝票を調べるなど容易ではありません。このことは多くの資源、漁業の解析に共通の問題で、とくにタコがとれる漁業は種類が多く、より効率的な収集方法を検討中です。
    • 調査概念図
ふ化後300日のミズダコ
  一方、増殖場造成に係わる調査では、これまで人工産卵礁の有効性が確かめられてはいるものの、浮遊幼生や着底まもない稚ダコの分布については不明でした。ミズダコに限らず、スケトウダラやケガニ、ホタテガイ等など浮遊する卵稚仔の分布・移動の調査(ラーバ調査)は技術的に難しく、水産資源の共通課題となっており、なかでもミズダコの浮遊幼生は、採集個体が極端に少なく、分布の中心を推測することさえできていません。
  そこで、浮遊幼生が海流にそのまま乗って運ばれると仮定して分布を想定しようと、海流調査を行っています。流れを調べるには、船を泊めて機器類で測る方法と物を流して調べる方法がありますが、物を流す方法では、北部日本海で人工クラゲ(海流クラゲ)を使って行いました。これまで天売・焼尻を中心に10点から放流した500個のうち8個が見つかっていますが、その多くは網走まで流れていました。また、地域によって漁獲変動に差があることからみて、いくつかの系群に分かれていると考えられるので、標識などの目印をもとにミズダコの移動・分布を推定し、浮遊経路の推定結果と合わせて産卵場と着底場とのつながりを調べていきます。

  来年度からは小型の桁網により稚ダコを採集してその分布を調査する予定です。今後、資料がまとまり次第、またミズダコについてお話しできると思います。
(稚内水試)