水産研究本部

試験研究は今 No.39「新任水試職員に聞く」(1990年8月3日)

試験研究は今 No.39「新任水試職員に聞く」(1990年8月3日)

水試新任職員に抱負を聞く

司会: 本日は本年度採用になった水試の研究職員の方々に集まってもらいました。

  4月1日から今日まで、皆さんは道庁水産部で研修を受けてきましたが、これから道内各地の水試に配属されます。今日は浜の皆さんへの紹介もかねて、期待や抱負などを聞かせてください。まず、それぞれ大学卒業後も研究を続けてきたわけですが、その辺のところから…。

菅原: 私は主に秋サケの産卵期におけるタンパク質量の変化と、その合成能や分解能を調べてきました。秋サケは母川に回帰するまでは脂質が消費され、河川に遡上するとタンパク質が消費されます。ブナ化というのは、このタンパク質が消費されることと関係があるのですね。これはコンピューターによる画像解析でも示されましたが、大学院時代は、このような研究をしてきました。

横山: 私は噴火湾に生息するアカガレイの生活史を調べていました。噴火湾には約70種の底生魚類がいますが、最も多いのはスケトウダラの幼魚とアカガレイです。スケトウダラの幼魚は成長に伴って湾外に移動しますが、アカガレイは周年湾内にとどまり、生態系の重要な構成員になります。湾内でのアカガレイの移動は産卵期や索餌期の生活年周期によるほか、湾内に流入する津軽暖流水と親潮系水の勢力の大きさと密接な関係があることがわかりました。また、アカガレイは体長25センチメートル前後で食べる餌生物が変化することもわかり、これが餌生物をめぐる種内の競争を緩和させることになり、優占種として生息できる要因にもなると考えています。網走水試では主にホタテの研究が中心になるかと思いますが、これからもアカガレイの動向には注目していきたいと思っています。

武田: 畑違いのように思われるかも知れませんが、私は民間にいて、全自動カメラやOA機器に使うフレキシブル回路の基板開発に携わってきました。この回路はフィルム、接着剤、銅箔の三層構造となっており、どんな狭いところでも折り曲げて収納できますが、とりわけ開発のポイントになるのは接着剤の選定でした。それは基板を実際に用いる過程で耐熱性や耐薬品性が要求されるからです。このため、接着剤の選定には様々な試験を地道に繰り返してきました。しかし、何と言っても難しいのは、どんなに優れた製品を作っても他社との差別化や値段とのバランスを考えないと製品として売れないということです。水試に行ってもこの観点から製品づくりに努力していきたいと考えています。

西田: 私は海洋学について研究してきました。津軽暖流についてお話ししますと、現在、対馬暖流の8割が津軽海峡に流入すると言われてきましたが、必ずしもそうではなく、流入量に変動があることがわかっています。その要因としては、対馬暖流の厚さや流軸の位置などがありますが、人工衛星や沿岸域の観測データから対馬暖流の流量を算出する手法を開発しましたので、データを蓄積していけば近い将来、流量を測定することも可能と思います。また、沿岸水位から対馬暖流をモニターリングする手法を開発中で、これが完成すれば過去の潮位記録から対馬暖流や津軽暖流の流量を推定することができ、日本海の磯焼けや噴火湾のカレイ類の分布範囲の解明に何らかの助言を与えられるだろうと思います。

司会: 皆さんは4か月間、行政の立場で試験研究の成果に触れることができたわけですが…。

菅原: 漁業管理課にいましたが、根室管内のケガニ漁獲量規制もかねて、資源量調査の結果をまとめる機会があり、大いに勉強になりました。やはり調査のポイントを浮き彫りにするためには浜の人たちとの意見交換から得るところが大であると改めて思いました。

武田: 意見交換もさることながら、意見調整も難しいですね。私のいた水産経営課はホタテガイの出荷規制を判断する要となる課ですが、6月にはフランス向けのホタテガイがあわや輸出停止かという問題が起こり、各試験場のデータをまとめる作業が深夜まで続きました。試験場で出されるデータはこのように使われるのですね。

西田: 私は栽培漁業課で道内各地域の指導所で集められるホッキガイの資源量や漁獲量から全道の資源量動向をまとめる仕事をしていました。これが今後の漁獲量の決定や種苗放流のための基礎資料となるものですから、調査は正確さが大事です。それと試験場や普及指導所、浜のあらゆる情報が集まる所が行政で、それら一つひとつの内容を吟味します。
決してそれぞれが単独のものではなく、試験研究の成果が行政の推進にいち早く取り込まれていることを知りました。

司会: 今後の抱負は…。

武田: 浜の人たちとは仕事上だけでなく、私生活においても互いに浜に生きる者として付き合っていければと思います。また民間にも一時いたので生産性や経営を考えた技術開発や試験研究を行えればと思っています。

横山: 浜の二一ズに応えるといっても、あらゆる要望に一つひとつ応えていくのは実際のところ難しいと思います。一つの要望でもその実現のためには、調査や試験の順序がありますし、ある程度の時間はかかります。しかし、その順序を一つひとつ明確にし、限られた期間内で成果を出せるよう努力したいと思います。

司会: ありがとうございました。

新任職員プロフィール
  • 菅原玲 25才 稚内水試加工部 北大大学院水産学研究科修士課程(食品化学及び魚類生理学)
  • 武田忠明 26才 網走水試紋別支場利用・加工部 北大水産学部化学科(水産加工)
  • 横山信一 31才 網走水試増殖部 北大大学院水産学研究科博士課程(海洋生態学)
  • 西田芳則 25才 函館水試増殖部 北大大学院水産学研究科修士課程(海洋学)