水産研究本部

試験研究は今 No.617「平成20年度網走水産試験場研究成果検討会概要について」(2008年6月9日)

  平成20年5月23日、当網走水産試験場会議室において、「試験研究成果検討会」を開催しました。

  本検討会は、平成10年度から毎年度開催しており、網走水産試験場が抱える研究課題の計画概要や進捗状況及び問題点等について、場内全体での理解と連携を深めるととともに、今後の推進方向の検討に資することを目的として開催しているものです。

  今年度は、調査研究部から3課題、加工利用部から2課題の計5課題の研究課題をそれぞれの担当研究職員が発表しました。
この発表した内容(概要)について、ご紹介します。

試験研究成果検討会の様子

 発表課題名(発表者)
    • 試験研究成果検討会の様子
    • プロジェクターを使用した説明

調査研究部

1 「汽水湖の環境保全技術の開発(能取湖で発生した青潮の状況と漁業被害)」 (研究職員 品田 晃良)
(発表概要)
(1) 青潮の状況と漁業被害
  青潮は、平成19年9月19日に能取湖南部で発生した。海色はエメラルドグリーンで、表層の溶存酸素は1.0 ミリグラム/Lと非常に低かった。ホタテガイ稚貝のへい死は、青潮発生前日の9月18日に卯原内の中間育成施設内で観測された。底層試験カゴ内の放流1年貝のへい死は、青潮発生後の9月21日の調査では、水深7メートルのカゴで半数が、水深9メートルのカゴでは全数がへい死していた。

(2) 貧酸素水塊の挙動特性
  9月18日から27日にかけて行った水温、塩分および溶存酸素濃度の鉛直分布調査は、南風により底層の貧酸素水塊が上昇する様子を捉えていた。また、6メートル/s以上の北風が観測された25日以降は貧酸素水塊が解消されていた。これらの結果は、瀬戸ら(2004)の数値シミュレーション結果をほぼ支持する。
2 「漁業生物の資源・生態調査研究(ホッケ)」 (研究職員 室岡 瑞恵)
 (発表概要)
  4月の網走では大部分が1歳魚であったのに対し、紋別では4月に1歳魚と2歳魚が36パーセントと62パーセントであったのが5月に48パーセントと46パーセント、6月に62パーセントと37パーセントと徐々に1歳魚の割合が大きくなっていた。6月の同日に沖合底びき網と底建網で漁獲された標本は同じ1歳魚が主体であるにも関わらず、体長がそれぞれ19~26センチメートル、26~35センチメートルと異なっており、異なる群である可能性が示唆された。 また、6月のウトロにおける小定置網での漁獲物はほぼすべてが1歳魚であった。10月にオシンコシン付近の岩礁地帯では1~4歳魚が漁獲され、産卵中の個体もみられたため、この海域に産卵場があることがわかった。さらに、11月以降に紋別で漁獲された個体はほとんどが0歳魚であった。これまで銘柄別に年齢をあてはめてきたが、網走と秋期の紋別では正解率が約9割であったのに対し、春期の紋別では正解率が2~5割と誤差が大きく、特にこれまで1歳魚としてきたものの一部が2歳魚であったことがわかった。
3 「乾燥ナマコ輸出のための計画的生産技術の開発(3次元画像解析と音響調査を用いた資源量推定技術の開発)」  (栽培技術科長 桒原 康裕)
 (発表概要)
(1) 3Dムーフィックス処理のための海底ビデオ撮影技術開発
  雄武町沖マナマコ漁場内で100メートルビデオ撮影を実施し、1,100メートル分の3Dムーフィックス処理画像を得た。水深別、時期別に撮影条件の異なる画像からマナマコを目視により判別した結果、判別可能な画像は500メートル分であった。判別困難な画像は、撮影方向に対して垂直方向の細かなブレが顕著であり、撮影時の波浪、潮流の影響が大きいと考えられる。

(2) 画像からのマナマコ判別および計数法開発
  画像計測との比較を目的とした潜水計数調査(1,200メートル)の結果、153個体、平均密度は0.14個体/m2であった。ムーフィックス画像上でマナマコの目視判別に成功したマナマコは35個体、潜水による計数結果(1,100メートルで120個体、平均密度は0.11個体/m2)と比較した判別率は0.29である。画質が良好な場合、判別率は0.49、平均密度は0.052個体/m2、不鮮明な場合は0.17、0.015個体/m2と顕著な差が見られた。画質が良好な場合でも、谷底のようにカメラからの距離が遠くなる場合、画像は不鮮明となり、識別は困難である。画像上での体長測定も34個体で可能であり、平均体長は143.9ミリメートル、標準偏差は40.2であった。自己組織化マップを利用した自動判別を予備的に実施したが、現状の判別レベルは不十分であった。

加工利用部

1 「マダラ白子の流通技術の開発について」 (加工開発科長 武田 忠明)
 (発表概要)
(1) マダラの雌雄判別技術の開発
  雄マダラの漁獲時からの品質管理の促進と市場価格の適正化を図るため、雄雌判別及びマダラ鮮度管理技術について検討した。
  雌雄判別技術では、非破壊計測機器である超音波エコー装置、超音波エコーセンサ、光ファイバーによる雌雄計測試験を実施し、判別の可能性が示唆された。鮮度管理技術では、漁獲直後からのマダララウンドの鮮度管理の徹底により、0度(氷蔵)で3日間保存後でも、的(臭い)に問題がなく、低温細菌数やK値の増加も抑制されていた。

(2) マダラ白子の高品質化技術の開発
  道産マダラ白子の市場競争力を高めるため、高品質マダラ白子の流通技術(殺菌及び白色化技術、品質保持技術)について検討した。
殺菌及び白色化技術では、白子をオゾンマイクロバブル(以下、MBと略)水または酸性電解水で洗浄することにより、保存中の低温細菌の増殖が抑制されることを確認した。また、白色化には、塩水浸漬法が有効であった。
  品質保持技術では、通常の含気パックと酸素または窒素塩水パックにおける低温細菌の増殖速度(菌相)の違いを把握するなど、微生物制御に向けた知見を得た。白子の品質指標である低温細菌数や加熱後の褐変抑制については、0度保存、塩水パック浸漬が有効であった。オゾン、酸素などの溶存濃度を高くするには、MB水生成装置が効果的であり、生成速度では散気球方式の4倍以上の能力であった。また、静置後の溶存ガス濃度の低下も少なく、安定していた。
2 「サケ中骨素材のカルシウム吸収」 (研究職員 秋野 雅樹)
(発表概要)
  サケ中骨の食用化利用を図るため、超微細化技術(ナノテクノロジー)を活用したサケ中骨カルシウム素材の開発を行った。サケ中骨素材の調製は、次のように行った。サケ中骨→酵素、アルカリ処理→乾燥→粉砕。粉砕は、アトマイザーミル、ジェットミル、ダイノミル等で行った。サケ中骨カルシウム素材の粒径の差異(微細化の程度)や加工処理(精製度合い)がカルシウム吸収に及ぼす影響を評価するため、ラットでのカルシウム出納実験を行った。
  カルシウム吸収は、SBFP1*群よりSBUP2*群で有意に高く、サケ中骨素材を超微細化処理がカルシウム吸収に効果的であることが確認された。また、サケ中骨の加工処理の違いでは、カルシウムの吸収は、SBUP2*群よりCSBUP3*群で有意に高く、精製度合いの違いがサケ中骨素材がカルシウム吸収に影響を及ぼすことが示唆された。
両方の試験を通してサケ中骨超微細化粉末が、特級試薬の炭酸カルシウムと比較しても遜色のない優れたカルシウム素材であることが明らかとなった。

1*SBFP:サケ中骨微細化粉末(平均粒径 数100ミクロン)
2*SBUP:サケ中骨超微細化粉末(平均粒径 数ミクロン)
3*CSBUP:粗精製サケ中骨超微細化粉末(平均粒径 数ミクロン)

(網走水産試験場 齊藤 誠 )

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