水産研究本部

試験研究は今 No.619「アサリ稚貝を標識する!-アサリ種苗生産技術開発試験Ⅴ 稚貝標識技術の検討-」(2008年6月20日)

はじめに

  北海道のアサリは,道東地域を中心として年間約1,500トンの漁獲があります。この資源維持のために,資源管理や稚貝移殖といった対策がとられていますが,他地域からの稚貝移殖は,寄生虫や遺伝的な問題から規制される傾向にあります。そこで,安全な放流用の稚貝を確保するためにも,北海道のアサリを用いた種苗生産技術の開発が望まれています。これまで(試験研究は今 No.549,556,585,および598)紹介してきましたように,平成17年度まで栽培漁業総合センターでは能取湖産アサリを用いて,種苗生産技術の開発試験を行ってきました。今回は,稚貝の標識手法に関して行った試験を紹介します。

アサリ稚貝標識手法に関する試験

  アサリの標識に関する技術開発として,アリザリンコンプレキソン(ALC)もしくはアリザリンレッドSを用い,平均殻長2ミリメートルおよび0.5ミリメートルのアサリに対し,標識付けを行いました。ALCでの標識付けは,50ppmもしくは100ppmの濃度で24時間,また,アリザリンレッドSを用いた標識付けは,50ppmもしくは100ppmで1週間行いました。水温は室温とし,標識付け期間中,パブロバとキートセラスを給餌しました。

  平均殻長2ミリメートルおよび0.5ミリメートルのアサリはどちらも50ppmのALCにより標識付けを行うことができました(図1-1および2)。100ppmの濃度であっても,結果は変わりませんでした。また,1ヵ月後においても,その標識を確認することができました(図1-1および2)。さらに,ALCにより標識された部位に障害輪が生じており,これも外部標識として用いることができると考えられました。ALCによる標識は,9ヵ月後においても確認することができ(図1-3),標識として有用であると考えられました。
    • 図1-1
    • 図1-2
   アリザリンレッドSを用いた標識付けを行った結果, 50ppmに比べ100ppmの濃度による染色で,より濃く染色されました(図2-1)。しかしながら,小型個体において染色されづらい結果となりました。染色された標識については,1ヵ月後においても確認できました(図2-2)。これらのことから,アリザリンレッドSを用いた標識は,染色にむらがあり,染色方法について更に検討する必要があると考えられました。
    • 図2-1
    • 図2-2

今後の課題

  これまで,栽培漁業総合センターにおいて実施してきた,能取湖産アサリを用いた種苗生産技術開発試験について報告してきました。これらは種苗生産技術の基礎段階であり,今後は,栽培水産試験場において各ステージにおける生残率の向上や労力・コストの削減を図るため,更に検討していく必要があると考えています。

(栽培水産試験場 生産技術部 清水洋平)

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