水産研究本部

試験研究は今 No.605「餌のDHA含量がマガレイの質的向上の鍵」(2008年1月31日)

はじめに

  本誌No.575号で生物化学科が設置され、業務を始めたことを報告しました。今回は、発足から1年半が経過し、出始めてきた成果の一部についてお知らせします。

  人工種苗を生産する場合、放流後の生き残りが高くなるよう、健康で良質な種苗をつくることが求められます。マガレイは、体表の模様がきれいに出なかったり、眼の位置がずれたりする形態異常(図1)が発生しやすい特徴があります。この異常の発生をある程度防除する方法として、飼育水温を上げることや飼育の早い段階でアルテミアを給餌することが試みられていますが、十分なものではありません。
    • 図1
      図1.マガレイの形態正常魚と異常魚(ふ化後約50日)

実験に至る経過と方法の概要

  他のカレイ類では、海産魚類の必須脂肪酸であるドコサヘキサエン酸(DHA)含量等の餌料の質と形態異常出現率が大きく関係していることが知られているものの、マガレイではほとんど調べられておりません。そこで当科では、餌のDHA含量に着目して、マガレイの形態異常防除が可能かどうかを検討してみました。

  マガレイは、卵からふ化した後、一定期間の浮遊期を経て着底生活に移行します。この段階で眼が移動していく「変態」を行い、ふ化後50日前後で「変態」が完了し、カレイの形となります(図2)。これまでの研究で、マガレイの形態正常率に餌のDHA含量が影響する発育段階は、D~Eステージであることが分かっていましたが、この段階は、ワムシとアルテミアを両方摂餌しているため、どちらをどの程度のDHA含量に栄養強化すればよいかを調べる必要があります。そこで今回は、ワムシとアルテミアについてそれぞれDHA強化レベルを変えてマガレイ仔魚を飼育し、形態正常個体出現率を調べました。
    • 図2
      図2 マガレイの発育過程と給餌スケジュール

実験結果

結果を図3に示しました。ワムシ・アルテミアともDHA強化レベルが低レベルだと形態正常個体出現率が低く、中レベル以上で形態正常個体が多く出現しました。形態異常防除に必要な餌のDHA含量は、ワムシで1.6-3.3パーセント(乾重換算)、アルテミアで1.4-2.8パーセントと推定されました。また、ワムシに対する高いレベルでのDHA強化が、その防除に特に有効と推察されました。
    • 図3
      図3.各実験区の形態正常率(異なるアルファベットを有する値どうしは差があります。)

マガレイの質的向上を図る市販栄養強化剤の使用方法(案)

  これまでに明らかになっていたワムシ給餌期におけるDHA必要量は約0.6パーセントでした。しかし、今回の結果から、D~Eステージではこの必要量が約3~5倍に増加することが分かりました(図4)。市販の強化剤の多くは、メーカー推奨量で強化するとワムシ・アルテミアとも約1~3パーセントとなるように製造されていますが、ワムシで約0.6パーセントとなるような特徴のある製品もあります。これらをマガレイ種苗生産に適するように使用するためには、ふ化後3~14日までは、ワムシ中のDHA含量が低くなるよう、強化剤の量を減らすかまたは低く強化される製品を用い、15~25日齢では、強化剤の量をメーカー推奨量に戻して、ワムシのDHA含量が高くなるように調節する必要がありそうです。

  これらの手法が、量産規模のマガレイ種苗生産で応用可能かどうかなどについて、今後も研究を進めて行く予定です。

(栽培水産試験場 調査研究部 生物化学科 佐藤敦一)

    • 図4
      図4.マガレイの発育に伴うDHA必要量の変化

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