水産研究本部

試験研究は今 No.642「平成21年度網走水産試験場試験研究成果検討会の概要について」(2009年6月24日)

平成21年度網走水産試験場試験研究成果検討会の概要について

 平成21年5月28日、当網走水産試験場会議室において、「試験研究成果検討会」を開催しました。
 本検討会は、平成10年度から毎年度開催しており、網走水産試験場が抱える研究課題の計画概要や進捗状況及び問題点等について、場内全体での理解と連携を深めるととともに、今後の推進方向の検討に資することを目的として開催しているものです。

 今年度は、調査研究部から3課題、加工利用部から2課題の計5課題の研究課題をそれぞれの担当研究職員が発表しました。

 この発表した内容について、ご紹介します。
    • 試験研究成果検討会の様子

発表課題名(発表者)《調査研究部》

1「3次元画像解析と音響調査を用いた資源量推定技術」(栽培技術科長 桒原 康裕)

(目的)
 乾燥ナマコの計画的な生産を担保するため、適切なナマコの資源管理上で最大の制限要因となっている資源量推定の困難さを克服する必要がある。そのため、最新の画像解析技術であり陸上における測量調査でその有効性が実証されている3次元画像解析技術の海中目標への適用と得られた画像の自動処理化によって迅速かつ正確に漁場におけるナマコの分布やサイズを測定する技術を開発する(網走水産試験場担当)。さらに音響測深技術とGIS技術を融合した海底地形図作成技術(μCUBE)(はこだて未来大学、東京農業大学担当)を応用し、従来手法では限界のあった複雑な地形や大水深帯までを広くカバーする迅速で高精度なナマコ資源量推定技術を開発する。

(成果)
 北海道雄武沖のマナマコ漁場潜水調査により、100メートルライン13本と1ライン往復撮影2本の1,500メートル分のムーフィックス処理画像を得た。さらに同ライン上のデジタル写真撮影を1,400メートル分実施した。
ライン上のデジタル写真1,495枚撮影し、連結写真合成が可能であった。ビデオ撮影を実施し、潜水調査による平均密度0.20個体/平方メートル、ムーフィックス画像では平均密度0.13個体/平方メートル、判別率は0.66。写真画像では0.90であり、判別率はデジタル写真>ムーフィックス画像である。
ムーフィックス画像の2回撮影はデジタル写真並みに判別率を向上させた。
1ライン2本撮影の判別率は0.82で、連結写真の0.86に匹敵する判別率の向上が見られた。
さらに画像からの判別効率試算を実施した

2「ホタテガイ成長モニタリング調査の成果と今後の課題」(研究職員 品田 晃良)

(目的)
 オホーツク海海域における地まきホタテガイの生産額を安定化させるため、ホタテガイの成長と海洋環境をモニタリングして次の2点を明らかにする。
(1) 海洋環境がホタテガイの貝柱歩留まりに与える影響を明らかにする。
(2) 春季の海洋環境からその年の貝柱歩留まりが悪くなる確率を推定する。

(成果)
(1) 貝柱歩留まりが悪かった年の要因
2000年、2005年および2006年に見られた貝柱歩留まりが悪かった現象の要因として、春季の餌不足が考えられた。
(2) 貝柱歩留まりが悪くなる確率を推定するモデル
現在、最も良いモデルとして4月から5月上旬の餌濃度を用いたモデルが選択されている。2008年の予測結果は当たっていた。

3「ホッキガイ稚仔の資源への添加状況について」 —斜網海域前浜におけるホッキガイ稚仔調査の結果から—(研究職員 清河 進)

(目的)
 斜里・網走前浜におけるホッキガイ資源の維持管理を目的として実施されている資源調査ならびに稚仔調査の結果から、稚仔の資源への添加傾向を明らかにし安定的なホッキガイ資源の維持管理を図り、かつ効率的な漁獲計画を策定するためのデータを蓄積する。

(成果)
 両海域の殻長組成の推移状況は相似しており、同一海域と確認できた。
従前は資源調査のデータ量に比べ稚仔調査のデータ量が圧倒的に少なく相互に関連づけて考察することが困難であったが、近年の稚仔の大量発生により稚仔期の殻長推移状況の把握も可能となり、資源調査のみでは把握が困難であった再生産動向が推定可能となった。
稚仔の大量発生が確認された場合、資源調査で生残が確認できることから、稚仔調査のデータが将来の資源変動の推定に利用できる可能性が認められた。特に漁獲計画の策定(漁獲サイズ・漁獲量の変更等)に当たり、稚仔の発生状況および漁獲対象予備群(2~5年貝)の出現状況のデータが有用であることが示された。

4「乾燥ナマコの品質及び製造基準の確立」(主任研究員 成田 正直)

(目的)
 「日本ブランド」として備えるべき乾燥ナマコの品質基準および製造基準を明らかにする。

(成果)
(1) 品質基準:試験結果より、国内産乾燥ナマコの品質について以下の知見を得た。
・疣足数は、30~56個/個体。
・8倍重量に水戻しした場合の体壁の突き刺し強度は、50~110グラム。
・水戻し速度は、8倍重量までは70~110時間。
・水戻し15倍重量までは形体を保持し体壁の亀裂・崩壊は見られない。
・体壁のコラーゲン含有量は、40パーセント以上。ただし、本州産については分析中。

(2) 製造基準
・乾燥後の形体及び水戻し後の形体、物性から煮熟条件を総合的に判断すると、100度、30分煮熟、80~90度、30~60分煮熟(真水、塩水)が良好と判断された。
・鮮度と製品品質では、一晩海水蓄養したものは疣立ち、体壁の色調とも良好であった。当日処理、5度又は15度保管では、疣立ち不良や体壁の黒ずみ個体が発生した。

5「ナノスケール加工による水産物の品質保持・加工特性改善技術の開発」(利用技術科長 宮崎 亜希子)

(目的)
 水産物を微細化処理することにより、これまでの魚介肉(すり身)とは異なった加工適性を有する食品素材を開発する。

(成果)
 ホタテガイ貝柱のカッターミル処理では、カッターミルの回転数は1,500rpmより3,000rpmの方がゲル形成能が高く、微細化に伴う発熱には少量のドライアイス添加による冷却が有効であった。
カッターミル微細化肉はミンチ肉に比べ、ゲル形成能は向上し、塩分無添加加熱ゲルが可能になった。
湿式メディアミル処理により平均粒子径3ミクロンの超微細化物が得られた。超微細化物の乳化物は粒径が小さくなるほど粘度が高く、また、カッターミル微細化物に比べ、乳化安定性が高かった。(網走水産試験場 企画総務部 齊藤 誠 )

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