水産研究本部

試験研究は今 No.641「ペットボトルを利用した揚水機によるシオダマリミジンコの除去法」(2009年6月19日)

ペットボトルを利用した揚水機によるシオダマリミジンコの除去法

  マナマコを安定的に人工種苗生産するためには、稚ナマコを食害する小型甲殻類であるシオダマリミジンコの食害防除が不可欠です。北水試だより76号や試験研究は今No.640には,これまでに開発した対策を紹介させていただきました。この中で特に水中ポンプを使って飼育水を循環ろ過してシオダマリミジンコを除去する方法は,薬品を使わない点と飼育担当者が安心して育成できる点で優れています(写真1)。薬品を使う場合は,これを使うタイミングを図るために毎日の観察が不可欠な点と,水槽交換などの作業負担が大きいこと,さらに獣医師の診断が必要なことが大きな問題でしたが,水中ポンプによる方法にはこうした欠点はありません。
   
    • 写真1,2
  その一方,水中ポンプを使おうとすれば新たに電源を確保する必要がありました(ウニ・アワビを生産する施設では電源は不要で,海水による漏電の心配もあり設置していないところがほとんどです)。電動の水中ポンプを使わずに,直径13ミリメートルの塩ビパイプを使ったエアリフトで1分間に1.4リットルの海水を揚水できる方法も開発して,100L水槽レベルでの実用化もできました(写真2)が,種苗の量産時に使う大型水槽では揚水量が少ないなど,まだ改良の余地が残されていました。

  今回,各施設に必ずある「通気」と皆さんの喉を潤す「ペットボトル」を使い,こうした欠点を補う揚水システム「ペットボトル揚水機」を開発しましたのでお知らせします。

<ペットボトル揚水機>

  この揚水機は,どの種苗生産施設でも確実に設置されている通気と,ペットボトルを利用して電動ポンプと同じ1分間におよそ10リットルの海水を水面から15センチメートルの高さまで揚水するシステムです。

  写真3は実際にこの自作のペットボトル揚水機で海水をくみ上げているところです。

  底に錘になる砂利を入れたペットボトルの空き瓶に,5センチメートルのエアストーンを入れ,飲み口の部分にφ20ミリメートルの塩ビ管をつないで水深50センチメートルの水槽から水面の15センチメートル上まで伸ばします(図1)。このエアストーンに通気すれば,揚水システムの出来上がるいたって簡単な品物です。
    • 図1
  この揚水機であれば,皆さん自身で安価に自作できますし,電源も要らず水中ポンプでの揚水機と同様の効果が期待できます。電動式の水中ポンプ(10リットル/分の揚水量)の試験では2.5トン水槽に2機ずつ設置すればシオダマリミジンコの被害を防ぐことができていますので,これと同等数の設置で安心して種苗生産できると考えれます。不安であれば,皆さんが安心できる数だけ,電源の数を気にせずに投入できます。屋外での設置も可能で,漏電などの心配も要りません。

  栽培水試では5月末に着底させた種苗と昨年来育成している中間育成群でこのペットボトル揚水機を実地に設置して効果を確認します。

  これまで薬品に頼らざるを得なかった施設の皆さんも作業の軽減のために是非お試し下さい。
    • 写真4
  なお,このペットボトル揚水機は,こうしたナマコの育成の他にも,写真4のようにウニやアワビの篭育成時に,これまで篭内部に通気していたエアストーンをこれに組み替えて,篭の下の海水を篭の中に注いで篭内部の換水率を上げることにも利用できます。換水率が上がると成長が促進される効果が期待できます。ちょっとした工夫ではありますが,“もったいない”の精神で,どんどん飼育手法を改良していきましょう。(栽培水産試験場 生産技術部 酒井勇一・近田靖子)

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