水産研究本部

試験研究は今 No.639「魚の体色の客観的評価手法の開発」(2009年4月21日) 

はじめに

  サクラマスやサケなどのサケ科魚類は川から海へとくだる際、これまで体側にあった斑点(パーマ-ク)は消えて無くなり、背中は青味がかった色になります。反対に側部から腹部にかけては白色が強くなり、銀色に輝いて見えるようになります(写真1)。これが、スモルト化と呼ばれる現象で、体色などの外見の違いの他にも、体型が細長くなるなどの形態的変化や、海水への適応能力を備えるようになるなど生理的な変化が生じることが知られています。スモルトはサケ科魚類の生活史の中でとても大事なイベントの一つです。
    • 写真1

体色の客観的な評価

  サクラマスでは、3月から5月にかけて、体色が徐々に銀色になっていくため(写真1左側)、体色変化からスモルト化のおおよその進行程度をうかがい知ることが可能です。このよう評価は簡便なため、野外では大変有効です。しかし、体色評価は、ある程度の経験を必要としますし、また光の当たり方によって体色が異なる見え方をすることも考えられます。そこで、サクラマスでは色彩色差計という機器を用いて、体色の客観的評価が行われています。この機器は、測定部を魚の表面にあてて光を照射し反射光の強さを測定する機器で、体色を数値で表すことが可能です(写真2)。色の数値はLabという単位で表され、このうちL値は白色の強さを表す指標で、理想的な白色を100、理想的な黒色を0として、この間の数値(0~100)で物体の白色の強さを表現できます。

  3月から5月に河川で採集されたサクラマスのL値の変化を見ると、徐々に数値が増加していることが分かります(図1)。数値の増加は白色度合い(銀色の強さ)が増加していることを示しており、スモルト化の進行程度を数値で客観的に評価できたことがわかります。
    • 写真2、図1

サケの測定

  では、サケでも同様な体色評価は可能でしょうか?理論的にはもちろん可能ですが、色彩色差計の測定部(写真2)は直径8ミリメートルからなっているため、体高がそれよりも低い魚種には対応していません。そのため、体高が低いサケ稚魚の測定には何らかの工夫が必要となります。そこで、測定部の上に直径3ミリメートルの穴を開けた板をかぶせ、その上にサケを置いて、体色の測定を試みました。黒色の板に光が遮られるため、サクラマスよりも低いL値となりますが、サケのL値は飼育4週目までは増加していき、その後は徐々に低下していく変化を示していました。

おわりに

  このように、サクラマスやサケの体色は色彩色差計により数値化できることがわかりました。今後は、このような体色変化が他の生理、生態的特徴とどのような関連があるのかを明らかにしていく予定です。(さけます資源部 安藤大成)

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