水産研究本部

試験研究は今 No.623「食酢・食塩で寄生虫退治」(2008年9月4日) 

はじめに

  水産孵化場では、サケマス増殖事業の効率化に向け、様々な取り組みを進めており、その一環として、卵や稚魚の管理手法の改良について技術開発を行ってきています。道内の孵化場で放流されるサケマス稚魚には飼育中にトリコディナ、イクチオボド等の原虫が寄生することがあり、健康な稚魚生産の妨げになっています。この問題に対し、これまで水産孵化場は茶葉抽出物、銅イオン、食酢+食塩を利用した治療方法について検討してきました。茶葉抽出物、銅イオンの利用については、「試験研究は今」の539号、603号でそれぞれ紹介しました。今回は食酢・食塩によるトリコディナ症の治療試験について紹介します。

方法および結果

  水産孵化場で試験飼育されていたサケ稚魚にトリコディナ(図1)が寄生していることがわかり、この魚を対象に食酢+食塩によるトリコディナ症の治療を試行しました。

  小さな水槽に2パーセントの食塩水を作り、これに市販の食酢を1.0~0.2パーセントの濃度になるよう加えて治療液としました。また、食酢と食塩のどちらに主要な治療効果があるのかを知るため、食酢のみを1パーセントいれた治療液も作成しました。これら治療液にトリコディナが寄生しているサケ稚魚を5分間浸漬しました。浸漬後のサケについていたトリコディナの数(尾びれ寄生分)を図2に示します。無処理では平均120個のトリコディナが寄生していましたが、食酢の濃度が高くなるにしたがい寄生数が減っており、食塩2パーセント+食酢1パーセントでは寄生数ゼロとなりました。また、食塩を添加しなくても食酢1パーセントだけで寄生がみられなくなり、治療効果は主に食酢にあることがわかりましたので、治療液は食酢のみとし、濃度を低減できないか浸漬時間を延長した試験を実施しました。治療液は食酢0.4~0.1パーセント、時間は30分としました。結果を図3に示します。無処理では平均420個のトリコディナが寄生していましたが、食酢0.4パーセントの浸漬で寄生数がゼロとなりました。30分間の治療では食酢濃度を0.4パーセントでまで低減できることがわかりました。更に濃度を低減できないか、食酢0.2および0.1パーセントに60分間浸漬しましたが、図4のとおり食酢0.2パーセントでも若干のトリコディナが残っており、0.4パーセント以下に低減することはできませんでした。
    • 図1/図2
    • 図3/図4
  これらのことからサケ稚魚のトリコディナ症は食酢1パーセントに5分間浸漬することにより治療可能で、時間を30分とした場合、食酢濃度は0.4パーセントまで落とせることがわかりました。現在、道内の孵化場では食塩+食酢の利用がかなり普及しており、原虫症の治療に有効な方法の一つと認識されています。今回はトリコディナ症での試験事例についてご紹介しましたが、他の原虫性疾病においてもこの方法が有効かどうか調べなくてはなりません。また、細菌性鰓病等の他の疾病が併発している場合はどうか、飼育水の種類、魚種、成長段階により効果が異なる可能性はないか、様々な疑問が出てきます。多くの現場で事例を集めながら、試験研究によりこれらを補強し、サケマス増殖事業の効率化につなげていきたいと考えています。

(北海道立水産孵化場 養殖病理部 畑山 誠)

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