水産研究本部

試験研究は今 No.635「イカ内臓の機能性養魚用飼料としての有効利用」(2009年2月20日)

はじめに

  近年,魚粉価格が高騰していることから,養魚用飼料に魚粉の代わりに使用するタンパク源の研究がされています。しかし,魚粉の代わりに大豆粕などの植物性タンパク質の割合を増やすと魚が餌を食べる量が減少し、成長が停滞します。また,魚粉を使わない飼料では,ブリやマダイは成長が遅くなり,緑肝症という病気になりますが,その原因はタウリン不足によることが明らかになっています。

  一方、このタウリンは,イカ内臓(イカゴロなど)に豊富に含まれており,イカを原料とする水産加工場が数多く集まった函館市を中心とした道南地域では,年間約1万トンが廃棄物となっています。

  そこで,イカ内臓をタンパク源とした飼料原料(SLM)を作り,これを魚類に給餌して,タウリン供給源としての可能性を検討しました。

SLMを配合したペレット飼料の調製方法とタウリン量

  イカ内臓は,カドミウムなどの飼料に適さない重金属類を含むことから,これらを工業試験場が電解処理によって取り除きSLMを作りました(図1)。SLMのタウリン含有量は約1250ミリグラム/100gで,魚粉の4.3倍でした(図2)。
    • 図1
    • 図2
    • 表1
  次に飼料の魚粉量をSLMで0,20,40,60および80パーセント置換したペレット飼料を作りました(写真1)。各ペレット飼料のタウリン量は表1のとおりで,SLMでの置換率の高いものほどタウリンを多く含んでいました。

SLMから魚体内へのタウリンの供給

  飼育試験は,クロソイ稚魚(全長平均109.9ミリメートル,体重平均23.0グラム)およびマツカワ稚魚(同103.0ミリメートル,同14.7グラム)を水温15度で,クロソイは置換率0~80パーセント,マツカワには置換率0~60パーセントのペレット飼料を各々12週間給餌しました(写真2)。
    • 写真1
    • 写真2
  2魚種の筋肉および肝臓中のタウリン量は,置換率が高い飼料給餌で多くなる傾向がみられました(図3,図4)。このことから,SLMがクロソイおよびマツカワ稚魚へのタウリンの供給源となったことが推察されました。
    • 図3
    • 図4
  現在,日本国内の魚粉の供給量は約60万トンで,道南地域で排出されるイカ内臓は1万トン程度なので,単に魚粉の代わりとして利用するにはとても少ない量です。しかし,SLMは既存の魚粉や植物タンパク質に混ぜて,天然タウリンを魚類に供給する飼料原料として利用することが期待出来ます。なお本研究は,農林水産省農林水産技術会議のH18~19年度先端技術を活用した農林水産研究高度化事業およびH20年度新たな農林水産政策を推進する実用化技術開発事業の一環として実施しました。(釧路水産試験場 加工部 信太茂春)

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