水産研究本部

試験研究は今 No.633「ホッキガイの付加価値向上をめざして」(2009年1月23日)

はじめに

  近年,道内産ホッキガイの価格は低下傾向にあります。また,生鮮むき身の塩水浸漬製品は,品質保持期限が短いことが問題となっています。さらに,むき身の冷凍品は冷凍・解凍中に肉質の軟化が生じるため,冷凍流通が実用化に至っていません。一方,小型のホッキガイは,全体の価格を引き下げる一因となっています。そのため,道内産ホッキガイの付加価値向上を目的として,冷凍・解凍におけるむき身軟化原因を明らかにするとともに,塩水浸漬製品の品質保持期限を延長するための技術開発を行うこととしました。さらに,ホッキガイ自体の付加価値を向上させるため,特に価格の安い小型ホッキガイに適した加工品の開発を行いました。

ホッキガイむき身の冷凍・解凍による軟化について

  ホッキガイむき身の冷凍・解凍による軟化原因の解明について,組織の状態を見るために,電気泳動による筋肉たんぱく質の分子量の変化,顕微鏡による組織の損傷などの観察を行いました。その結果,電気泳動では,解凍後の生冷凍区分で分子量20万以上の筋肉たんぱく質の消失が見られました(写真1)。また,顕微鏡観察では,凍結時の氷結晶による組織の損傷よりも,冷凍・解凍により表皮付近の層状組織が不明瞭になりました(写真2)。これらのことから,ホッキガイむき身の冷凍・解凍による軟化には,自己消化酵素が関与していると推察されました。
    • 写真1
    • 写真2
  次に,冷凍・解凍による軟化防止について検討しました。その結果,生に近い食感や色調を残すためには,50度・1分間程度の低温加熱処理が有効であることが確認されました(図1,写真3)。
    • 図1
    • 写真3

塩水浸漬製品について

  ホッキガイのむき身が出荷される場合,塩水に漬けられています。これまでは,5度程度の低温で流通しており,塩水の濁りなどにより品質保持期限が短いという問題があります。そこで,塩水浸漬製品を従来の5度で貯蔵するよりも0度で貯蔵した場合,塩水の濁りが抑制されるなど品質保持期限が延長できるかどうか検討することにしました。その結果,0度貯蔵により塩水の濁り防止と品質保持期限の延長が図られました(図2,写真4)。
    • 図2
    • 写真4

小型ホッキガイの利用について

  小型ホッキガイの消費拡大を図るため,むき身の低温加熱処理を応用した刺身タイプ製品,生鮮むき身からの粕漬製品や調味発酵食品等を試作しましたが,いずれも官能評価では高い評価を受けました (図3)。
    • 図3

おわりに

  以上のように,これまでの試験からホッキガイむき身で問題となっていた冷凍・解凍による軟化の原因が推察でき,その防止法を応用した生に近い食感や色調を残した製品を開発しました。また,価格の安い小型ホッキガイの付加価値向上につながる製品を試作しました。今後は,これらの技術の普及を図ることで,道内産ホッキガイのさらなる需要拡大につながればと考えています。(中央水産試験場 加工利用部 菅原 玲,臼杵睦夫)

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