水産研究本部

試験研究は今 No.632「檜山地方でのサクラマススモルトの放流効果」(2009年1月5日)

はじめに

  サクラマスはサケとは異なり,孵化後稚魚の状態で降海せず,1年以上を河川で生活した後幼魚の状態で降海するため,河川環境が資源量に強く影響します。河川工作物の設置や河川改修により幼稚魚の生息環境が悪化している現在,稚魚の状態で河川に放流する稚魚放流と比べ高コストという問題はありますが,すぐに降海できる段階まで飼育した幼魚を放流すること(スモルト放流)が高い回帰率を示す点では有効とされています。

  桧山地方においてサクラマス孵化放流事業は,八雲町熊石地区の水産孵化場道南支場と乙部町サクラマス種苗センターにより事業を展開しています。道南支場では桧山地方の河川へ稚魚放流を行うとともに,2004年からスモルト生産尾数を大幅に増やし,毎年19~33万尾のスモルトを主に見市川へ放流しています。乙部町サクラマス種苗センターでは,毎年55万尾のスモルト生産を行い,桧山地方の河川へ放流しています。
    • 写真1

放流後のサクラマスの回遊と水揚げ場所

  桧山地方の河川に毎年5月頃に放流されたスモルトは放流直後に降海し,急速に北上しオホーツク海で越夏します。そして秋にオホーツク海から南下を始め,主な越冬場所は津軽海峡や胆振沿岸と考えられています。桧山沿岸では放流翌年の1月頃から漁獲され,春から夏にかけて母川に遡上し始めます。サクラマスは降海後,母川に回帰遡上をするまでの1年間,越夏時期以外は本道沿岸付近を回遊するため,全道各地で沿岸漁獲の対象となります。水産孵化場が1994年以降10年間にわたり,北海道西岸に位置する25~37箇所の魚市場において標識を施して放流したサクラマスの水揚げ実態を調査しました。放流河川前浜以外にも広い範囲で水揚げされていることが確認されましたが,2~4割は前浜付近で漁獲され,前浜での水揚げ量が一番多いことがわかりました。

桧山地方のサクラマスの市場調査

  道南支場では,前述の1994~2003年の調査に引き続いて,2004年から桧山地方でのサクラマススモルトの放流効果を調査するため,漁獲された時に区別できるように鰭切り標識を施したスモルトを放流し,翌年の1~6月に魚市場に水揚げされた標識魚の確認(市場調査)を,ひやま漁協,檜山北部及び南部水産技術普及指導所,せたな町役場の協力のもとに行ってきました。ひやま漁協の7支所の中から,標識魚の放流を行っている見市川と突符川の放流河川前浜を含む大成,熊石,乙部の3支所の魚市場で市場調査を行い(図1),この調査結果をもとに桧山地方全体の標識魚の水揚げ尾数を推定しました。
    • 図1
    • 写真2

桧山地方におけるサクラマススモルトの沿岸回収率と放流効果

  道南支場及び乙部町サクラマス種苗センターから放流した標識魚のうち,桧山地方に戻ってきて漁獲されたと推定される割合(推定沿岸回収率)は0.9~1.8パーセントとなりました(図2)。サケの回帰率(約5パーセント)と較べると低いように思われるかもしれませんが,この数値は桧山地方で漁期中に沿岸漁獲された標識魚の尾数から推定した回収率であり,河川に遡上した標識魚や桧山以外で漁獲された標識魚の尾数は含まれていません。次に標識魚の推定沿岸回収率と,桧山地方からの無標識魚を含むスモルト放流尾数を用いて,スモルト放流由来の水揚げ尾数を推定し,桧山地方のサクラマス水揚げ尾数のどの程度がスモルト放流魚であるかを調べました。道南支場がスモルト放流を大幅に増やした2004年以降,水揚げ尾数の10~24パーセントが道南支場及び乙部町サクラマス種苗センターからのスモルト放流魚であると推定されました(図3)。
    • 図3

おわりに

  サクラマスが放流河川前浜以外にも広い範囲で水揚げされていることを考慮すると,全道の漁獲量に対する放流事業の貢献度はさらに高くなり,桧山地方のスモルト放流事業は全道的に減少傾向にあるサクラマス資源の底支えの役割を果たしていると考えられます。しかし放流努力を続けているものの漁獲量が低迷している現在(図4),今後もより効率的にサクラマス放流事業を進めていくことはもちろんですが,放流魚もしくは天然の親魚が河川に遡上産卵し次世代の資源となる再生産資源の造成研究を進めることが必要です。放流魚と再生産資源をうまく組み合わせることにより,サクラマス資源が再生されることが望まれます。(水産孵化場 道南支場 飯嶋亜内)
    • 図4

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