水産研究本部

試験研究は今 No.631「平成20年度青函水産試験研究交流会議の開催」(2008年12月17日)

平成20年度青函水産試験研究交流会議の開催

  去る11月17日函館市民会館で「平成20年度青函水産試験交流会議」を開催しました。青森と北海道(函館)は津軽海峡という共通の研究フイールドをもつことから平成3年度に研究交流が始まり、共同研究等で得られた成果は平成9年度から青森と函館で交互に本交流会議を開催し発表してきました。今回は、ホタテガイについて3課題、ミズダコ、スルメイカ、ヤリイカの頭足類3課題を発表しました。

噴火湾に出現する貝毒プランクトンと海況の関係について(函館水産試験場 馬場栽培技術科長)

(1) 噴火湾の水塊の季節変化と下痢性貝毒プランクトンの出現の関係を明らかにし た。春の下痢性貝毒原因種アキュミナータは沿岸親潮系水に、夏の原因種フォルテイは夏季噴火湾水に、秋~冬の原因種トリポスは津軽暖流系水~冬季噴火湾水にそれぞれ出現する。
(2) 麻痺性貝毒プランクトンは5月の強い南東の季節風「ヤマセ」の影響により、増殖期から接合期に移行し、消滅すると考えられる。
(3) 噴火湾に出入りする水塊の動向や「ヤマセ」を観測することにより、貝毒発生の予測ができる。
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陸奥湾の貝毒調査の近況について(青森県水産総合研究センター増養殖研究所 高坂主任研究員)

(1) 過去5年間のデータからプランクトン出現密度と毒性の関係について推定式を作成し、シミュレートした。今後、D.fortii細胞状態による毒性データの蓄積、ホタテガイの生理などを加え、精度向上を図る。
(2) D.fortiiの出現は餌であるM.rubraにより予測できる可能性があり、今後、データを蓄積し、相関を把握する。また、M.rubraの餌であるクリプト藻のモニタリング手法を検討する。
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噴火湾ホタテガイ養殖における採苗の良否と環境の関係について(函館水産試験場 菅原研究職員)

(1) 毎年の採苗と卵巣発達期(2月)の餌量との間には強い関係があることが分かった。(2月餌不足の年=浮遊幼生の発生量が少ない。)また、卵巣発達期(2月)まで餌がなく母貝が成長不良の年も浮遊幼生の発生が少ないことが分かった。
(2) 2月餌不足の年と母貝成長不良年は、それぞれエルニーニョ、ラニーニャ現象発生年と一致していた。
(3)  採苗良否にはさらに浮遊発生期の表層水・渦の状況が影響することが明らかになった。
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津軽海峡青森県側におけるミズダコの生態と資源管理について(青森県水産総合研究センター 野呂資源開発部長)

(1) ミズダコの成熟時期を調べた結果、成熟個体はオスでは12月~5月、メスでは1月~4月に出現していた。  
(2)  標識放流により、移動回遊範囲はほぼ津軽海峡内に限定されること、放流時サイズが大きいほど成長が速いことが分かった。
(3)  近年の漁獲量は、高い水準で推移しており、小型個体の再放流と禁漁期間の設定による資源管理が有効に機能していると考えられた。
(4) 産卵生態、年齢形質が不明で、浮遊期間が長いことなどから、資源解析は難しく今後の課題である
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北海道・青森周辺に分布するスルメイカの回遊経路と生態について(函館水産試験場 澤村研究職員)

(1) 道南に来遊するスルメイカのうち、日本海側の群れは日本海を北上してきた秋生まれ群であり、太平洋側の群れは、津軽海峡を通じて日本海から来遊した秋生まれ群と、太平洋を北上してきた冬生まれ群が混在している。
(2) 北上期の5月に日本海側で標識放流した個体の再捕は、日本海側で豊漁・太平洋側で不良であった2006年には日本海側で、太平洋側で豊漁・日本海側で不良であった2007年には津軽海峡・太平洋側で多く見られた。
(3) 日本海の秋生まれ群が津軽海峡を通じて太平洋に抜ける割合は年によって変動し、各地の漁況に影響を与える。この変動は、北上期の水温分布と関係している可能性がある。
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青森県と道南周辺におけるヤリイカの漁況予測(青森県水産総合センター 高橋主任研究員)

(1) 太平洋から津軽海峡を抜けて日本海へ回遊し1~2月に産卵する冬群の漁況予測を2005年から行っている。
(2) 漁獲量と日本海冬季(1~3月)の水温と関連性があり、長期的に水温が高いと漁獲が増え、逆に低いと漁獲が減る。また、冬群の日本海への回遊時の津軽暖流の流量が太平洋側、日本海側の漁獲に影響を与える。
(3) 冬群では、漁期序盤の漁獲量と漁期全体の漁獲量に高い相関が認められ(相関係数が0.9)、予測手法として活用している。今後は、春群の漁獲予測について検討したい。
(函館水産試験場 企画総務部 浅野 衆平)
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