堆肥の施用時期と混和方法が、黒ボク土で栽培されたテンサイ(Beta vulgaris L.)の養分吸収量と収量に及ぼす影響
笛木伸彦,酒井治,渡辺祐志
道総研農試集報.105,71-79 (2021)
堆肥の施用時期(秋および春)ならびに混和方法(プラウ鋤き込みおよびロータリー混和)がテンサイの窒素・リン酸吸収量と糖量に及ぼす影響を明らかにするため、3カ年(2014-2016 年)に亘る圃場試験を、北海道十勝地域の黒ボク土を供試して行った。堆肥の春施用は、秋施用よりもテンサイ生育初期の窒素吸収量を高める傾向があった。この理由は、秋施用された堆肥は冬期間に硝酸溶脱を受けるため生育初期の窒素吸収量が低下するのに対し、春施用された堆肥はこの溶脱を受けないと推察された。テンサイ生育初期のリン酸吸収量についても、堆肥の秋施用よりも春施用で高まる傾向にあった。この理由は、一つの仮説ではあるが、アロフェン質土壌である黒ボク土におけるリン酸吸着の時間が、春施用よりも秋施用でより長くなるためと考えられた。テンサイの糖量も秋施用よりも春施用で高まる傾向にあり、このことは生育初期における窒素およびリン酸吸収量が示した上記傾向と一致した。一方、堆肥のプラウ鋤き込みとロータリー混和(両者とも春施用)間の差については、窒素・リン酸吸収量および糖量に関しては、有意差はないかほぼ等しかった。この理由は次のように考えられる:プラウで鋤き込まれた堆肥は深さ10-25cm に分布し、ロータリーで混和された堆肥(0-10cm)より深いけれども、テンサイ苗の根の先端が露出する紙筒(長さ13cm)の底はプラウで鋤き込まれた堆肥に到達可能で、養分を吸収することができると考えられる。以上のことから、堆肥の春施用はテンサイの養分吸収および収量の面から見て秋施用に優ると考えられた。ただし、堆肥の秋施用には労働分散や害虫被害の軽減(タネバエ等)などいくつかの利点があるので、営農実践上の諸条件を総合的に考慮した上で最良の堆肥散布時期を選択すべきと考えられた。
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