農業研究本部

イネゾウムシの温度反応

富岡 暢

北海道立農試集報.1,49-51 (1957)

 本虫の活動温度範囲は、成虫では7.0~50.6℃の間の43.6度、幼虫では6.0~49.0℃の間の43.0度である。今、歩行(葡匐)より熱による静止までを正常活動温度範囲と考えると、成虫では13.4~34.0℃の間の20.6度、幼虫では12.6~33.3℃の間の20.7度である。すなわち、活動温度範囲および正常活動温度範囲は成幼虫ともほぼ相等しい。  しかし幼虫の方がいずれも活動温度限界は低くなっている。尾崎・山下(194912)は一般に昆虫では幼虫の方が成虫よりも低温活動限界が低いとのべている。このことはイネハモグリバエ(加藤、19485)、イネツトムシ(尾崎・山下、194912)およびイネヒメハモグリバエ(鈴木・宮岡・竹内、l95516)の場合とはよく一致しているが、イネドロオイムシ(柴辻、未発表。加藤、1953による14)、オオニジユウヤホシテントウ(小山、19516)、ニジユウヤホシテントウ(池本、19552)等の甲虫の場合には逆に成虫の方が低温活動限界が低くなっている。しかし、イネゾウムシは甲虫類ではあるが、上記のようにむしろ尾崎・山下の見解と一致している。  イネゾウムシの低温活動限界を他の昆虫と比較してみると、イネハモグリバエとは大体同温度ではあるがイネドロオイムシ、イネヒメハモグリバエ等いわゆる低温適応性の北方水稲害虫よりも数度高くなっている。低温活動限界が7℃前後の昆虫としては、フタオビコヤガ(柴辻、未発表。加藤、1953による14)、オオニジユウヤホシテントウ(小山、19516)、およびセジロウンカ(末永・山元、195115)がある。つぎに高温活動限界をみると、イネハモグリバエ、イネドロオイムシおよびイネヒメハモグリバエではいずれも45℃乃至であって、イネゾウムシの50℃に比較して著しく低い。高温活動限界が50℃前後の昆虫としては、バッタの類(元村、193811)、熱帯砂丘地に棲息する多くの昆虫(CHAPMAN et al、19261)等がある。  本虫は北海道において高温な年が続いた場合に発生が多くなることが知られているが(桑山、19287)、19419)、195410);井上・富岡、19543)その発生機構をさらに明確にするには特に温度との関係についての精細な飼育実験を行わなければならない。しかし、以上の実験結果によれば、活動温度範囲は43度におよび、前記した他の混虫よりもあきらかに広範囲であって、温度にたいしては非常に強い適応性を持つ昆虫であり、南北にわたって広く分布し得ることがうなずかれるとともに北海道のような温帯北部地方では、高温な年は本虫の発生に好適な条件となり、それに続く年に発生が多くなることは当然考えられるところである。


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