農業研究本部

根室地方に分布する摩周統火山性土の腐植の特性について
第1報 特に腐植中の有機態窒素及び燐酸について

早川 康夫

北海道立農試集報.3,71-84 (1958)

 根室地方に分布する摩周統火山灰土壌には比較的多くの腐植が含まれている。これら腐植の種々の効用のうち、まず植物に対する直接的な養分供給源としての意義について、特に腐植中に含まれる有機態窒素及び燐酸の分布とその可給態化の問題を検討し次に示す結果を得た。すなわち、 

1.礬土性の高い土壌である摩周c、d、両層では三二酸化物と結合する腐植を含み、HC前処理でこれを除くとNaFに可溶性となった。礬土性の比較的低い摩周a、b両層ではHCl前処理によるNaF溶解性の増加が少なく、石灰と結びついた腐植が多く含まれるものと思われる。
2.腐植をHCl可溶部、NaF可溶部、NaOH可溶部及び最終残渣部に分けたが、摩周昨c、d両層の腐植はNaF可溶の真性腐植酸と残渣部BrAcetate不溶のヒユミン炭の割合が多く、摩周a、b両層では植物遺体、粗腐植等NaOH可溶や残渣部中BrAcetate可溶のものが多かった。
3.摩周c、d両層の真性腐植酸は天然のままでは極めて安定で分解を受け難く、HCl前処理によりProteaseやPhosphataseの作用を受け可給態窒素及び燐酸の量を増加した。
4.植木鉢試験でHCl前処理の効果を比較したが窒素と燐酸の供給量が増加したことを明かに認め得た。

  以上の原因に依り当地方の火山灰土壌が腐植を多量に含有するにも拘わらず作物に対して天然供給養分が少なく地味瘠薄で、しかも開墾後相当の年月を経てもなお高い土壌腐植含量を保ち続けているものであると推定される。


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