農業研究本部

玉蜀黍褐斑病とその病原菌について

成田 武四、佐久間 勉、杉本 利哉、平塚 保之

北海道立農試集報.4,71-81 (1959)

1.本報文において1956年夏北海道に発生した玉蜀黍の新病害、すなわちKabatiellazeae NARITA et Y.HIRATUKAによる玉蜀黍褐斑病(玉蜀黍炭疽病)の性状および病原菌の性質の概要を記述した。
2.本病は1956年以降毎年発生をみているが、1956年の発生被害がもっとも甚しかった。分布は11支庁管内に及んでいるが、石狩、胆振、日高、渡島地方の一部に特に発生が多い。
3.本病は玉蜀黍の葉片、葉鞘、苞葉ときに茎などに普通径1~3㎜大の円形の乃至楕円形の病斑を生じ、病斑の中央は灰白色乃至灰褐色、周縁は褐色乃至紫褐色を呈するが、透過光線で見ると病斑の周囲に淡黄色、水潤状の暈が存在する。病勢が激しいとをは径1㎜以内の微細な病斑が密集して全面を灰褐色に変ずる。
4.病原菌の分生胞子は表皮細胞下に僅かに褥状に集った菌糸塊から生じた短梶棒状の分生子梗上に1~数ケ頂生し、無色単胞で、長新月形を呈する。その大きさは16.2~47.5×2.0~3.5μである。
5.葡萄糖または蔗糖加用馬鈴薯煎汁寒天培養基上で本菌ははじめ粘質、後革質の鮭肉色または緑黒色の菌叢をつくり、分生胞子を特に粘質部に多数生成する。菌叢は28℃または30℃におけるよりも24℃または20℃において発育が速かである。
6.分生胞子は28℃または30℃において24℃または20℃におけるよりも発芽が速かである。発芽管からの菌糸細胞は膨大し、多数の隔膜を生じ、多くの細胞に分生胞子を1~数ケ着生することがある。
7.本病原菌を玉蜀黍以外の禾本科植物16種および荳科植物2種に接種したが、いずれも発病しなかった。玉蜀黍ではフリントコーン、デントコーン、スイートコーン、ワツキシーコーン、ポップコーンなどいずれも発病するが、ポップコーンはやや発病し難くまた品種間に発病の難易が多少認められる。
8.病原菌は分生胞子および菌糸で室内または戸外で風乾状態に保たれた被害葉について越年し7月下旬までは生存し得る。これらが本病第一次発生源となるものとみられる。
9.本病の発生は比較的瘠薄な火山灰土に多く風のとおる方向に顕著に蔓延するが、7、8月が寡照多湿のときに猖獗する傾向がある。
10.本病の性状にもとづいて必要と考えられる防除上の注意点を述べた。


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