場長室過去記事:20250918豆を見ると思い出す
2025.9.18 豆を見ると思い出す
就職してはじめて担当した作物には、思い入れがあるものです。
私の場合は豆類でした。
はじめて担当したほ場試験は出芽がそろわず精度がガタガタ、作業のタイミングが遅れて雑草だらけ、段取り(事前準備)が悪くて補助スタッフにさんざん迷惑を。なんということでしょう、思い出すのは失敗ばかり、だんだん気持ちが沈んで来ました。
そういうことを思い出したかったわけではないのです。最初に担当した作物が豆類(大豆、小豆、いんげんまめ)だったため、試験会議でもニュースでも近所のスーパーでも、豆が話題になっていると気になります。
大豆や小豆を育てていていちばん好きな瞬間は、葉が落ち緑色の抜けた地味な莢から、栽培中には想像もできない色鮮やかな豆が見えたときです。


野生種(ツルマメ、ヤブツルアズキ、黒くて小粒の種がつきます)から、栽培種に至るどこかの段階で、だれかがきれいな色の豆を見つけたのでしょう。見つけた瞬間はさぞや驚いたのではと想像します。大豆の黄色や、小豆の赤なんて、育てている最中にはまったくあらわれない色ですから。


さて、ここ20年ほど、北海道では大豆の面積がおおきく増え、その一方で小豆の栽培面積はやや減少してきています。この要因のひとつとして、大豆ではコンバインでの収穫が当たり前になり人手がかからなくなってきているのに対し、小豆では収穫ロスが生じやすいなどコンバインの適用がやや遅れていることがあげられます。
最近、機械収穫の適性が優れる小豆の新品種「きたいろは」 が開発されました(成績概要書PDF、パンフPDF)。
通常の小豆は地面すれすれの高さにも莢が実るため、コンバインで収穫する際に莢が割れて豆が地面にこぼれ落ちてしまうことが課題でした。「きたいろは」は茎の下の部分(莢が実らない部分)が長く、地面から高い位置に莢が実るので、コンバインで収穫してもロスが少ない特徴があります。
この、茎の下部が長い(胚軸が長い)特徴が育種材料の中に見つかったこと、これを交配に取り入れて機械収穫しやすい小豆をつくりたいというビジョンは、試験場に入って間もない時期に育種担当者から伺っていました。育種の将来像とそこへ至る明確な道筋を描いて語る姿に心服したのを覚えています。
それから30年ほど経ち、新品種候補の検討会で「きたいろは」の試験成績をみたとき、これはあのとき聞いていた形質だ!と感激しました。
30年と聞くと、ずいぶん時間がかかったように思われるかもしれません。しかし、実用品種を開発する現場では、それまで扱っていなかったまったく新しい特性に取り組む場合、20~30年を要することはそれほど珍しくありません。今回も、内々に聞いたところでは、胚軸が長い特性を交配するといくつか別の悪影響を併せ持ってしまう傾向があり、それらを整えるために交配と選抜を何度も繰り返す必要があったとのことです。この間に担当者は何人も入れ替わっているはずですが、目標と材料を引き継ぎながら、良い品種を選んできたことに敬意を抱きます。
とはいえ、育成しただけでホッとすることはできません。順調に普及がすすみ、道産あずきの一員として身近においしく食べてもらえるようになることを願っています。私はつぶあんが好きです。
それにしても、毎年のことながら、収穫間近になった大豆、青々としていた葉っぱがすっかり落ちると、こんなにすっきりした姿になるのかと、少しさみしさを感じます。


これを見るたび、わたしの頭には、雨に濡れた子犬の姿が浮かびます。
豆類の品種改良は、道総研十勝農業試験場が中心的に担っています。上川農試は、当地域への適応性とアズキ茎疫病の抵抗性検定を分担し、連携して開発する体制をとっています。
十勝農試HPでは「小豆・菜豆のQ&A」 「北海道アズキ物語」などの読み物が面白いので、ご興味のある方は訪れてみてください。