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上川農業試験場

場長室過去記事:20251204あたらしい冬野菜の旬

2025.12.4 あたらしい冬野菜の旬

北海道でも、「冬野菜の旬」と呼ばれるようになるといいなと思っています。

冬の寒さの厳しい北海道でも、農業用フィルムを何段階か重ねることで、暖房を使わずに数種類の野菜を栽培できることが分かってきました(R3北海道普及奨励事項:概要書パンフ)。

 

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フィルムを複数重ねることで、暖房を使わずに野菜を栽培できます

 

北海道での暖房を使わない冬野菜の先駈けとして、寒締めホウレンソウの知名度が高いのではないかと思います。本州では冬の野菜は甘みがあっておいしいことが古くからから知られていたそうで、これを東北農業試験場(現・農研気候東北農業研究センター)が誰でも取り組める栽培技術として1995年に確立し(成果情報)、各地へと広がりました。北海道では、農研機構北海道農業研究センターが、道央地域で同様の栽培が可能であることを実証しています(H18北海道指導参考事項)。

寒締め栽培のホウレンソウは、夏のものとは見た目の形が違うだけでなく、甘みが強くてクセがなく、おいしいなあと思います。我が家でも、スーパーで見かけたら優先して買い物かごに入れています。

 

道総研が行った最近の試験では、10種類ほどの野菜が冬にかけて栽培可能であることが分かりました。気温が-5℃前後まであれば生育できる葉ものなどの野菜類です(栽培マニュアル)。あわせて、地域の寒さや雪の量に応じた、必要なパイプハウスの強度保温装備(農業用フィルムを重ねる枚数)のシミュレーションを行い、例えば比布町の条件ではフィルムを5段階重ねた構造とすることで、外気温が-26℃まで下がっても作物周辺の温度は-2~3℃にとどまり、暖房を使わずに問題なく栽培できることを明らかにしました。最近の冬の気候条件であれば、全道で同様の栽培が可能と考えて良いです。

旭川市では最低気温の最も低い記録は、明治35年1月25日に記録した-41℃です。ここまで下がるようであれば、さすがに暖房のないハウス栽培はまだ難しかったかもしれません。長期的な気温上昇傾向が、ここでは恩恵になっているのだと感じます。

 

冬野菜の栽培は、夏の暑さを忘れた頃、9~10月に種や苗を植え付け、気温が比較的確保できる12月初旬ころまでに生育を進めておき、収穫・出荷を12~2月に行います。

 

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今年の当場の試験栽培では、9月下旬にリーフレタスの苗を植え付けました

 

この作型の試験を進めていくなかで、夏の栽培とは違った利点があることが分かりました。

まず、これは耐寒性の強い作物に共通する現象なのですが、低温に遭遇することで糖分が高まります。ホウレンソウが甘くなることは以前の東北農研の調査から知られていましたが、ケールの一種ボーレコールも冬栽培ではかなり甘い野菜になるそうです(まだ食べたことがないので伝聞調としましたが、試験成績が公開されています=R7北海道指導参考事項:概要書パンフ)。

ボーレコールについては、冬栽培でのあまりの変わりように試験担当者も驚いたほどです。驚いた担当者たちが、新しい野菜として親しんでもらえる新しい呼び名をと頭をひねり「ゆきあまケール」の愛称を考えました。なるほど良い名前だなと私も思っていますが、いかがでしょうか。それにしても栽培する環境によってずいぶん変わるものだなと感心させられます。もしかしたら、夏の苦さは世を忍ぶ仮の姿で、冬の甘さの方が真の姿なのかもしれません。

 

もう一点、温度が低いと、生育がゆっくりと進みます。特に厳冬期の低温ではほとんど見た目の生育が止まったようになります。いわば天然の冷蔵施設で生きたまま保存している状態です。作物を栽培する立場では収穫適期の幅が長いという利点になり、市場の求める時期や労働力に合わせた作業が可能となります。

 

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12月上旬のリーフレタス。ハウスの中はいろどり豊かです。

 


私が幼少の頃、冬に食べられる野菜といえば、大根や白菜の漬物と、あとはジャガイモやニンジンなどを雪の中から掘り出してくるくらいでした(畑の隅で軽く土をかぶせて凍らないように保存していました)。真冬に地元産の新鮮な葉っぱの野菜が食べられるのは、夢のようです。

とはいえ、あの頃の野菜嫌いな私であれば、ありがた迷惑と考えたかもしれません。いやまてよ、冬野菜の味は夏より甘みが増すので、もしかしたら「冬なら食べる」なんて言うかもしれません。そんな想像をしてしまうような、北海道の冬野菜です。

 

北海道の冬野菜について、道庁が特設サイト「冬の畑のニュースター 北の新顔冬野菜」をオープンしています。イラストや動画が楽しいサイトです。

また、上川農試では、無加温ハウス栽培に関するマニュアルを公開しています。こちらもよろしければご参照ください。

 

 

それにしても、試験担当者は、なんでこんな寒いところで冬野菜の栽培に思い至ったのだろうかと考えてしまいます。道北生まれの私にはおそらく出来ない発想に、つくづく感心しています。
 

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無加温のハウスを抜けると、雪景色でした。

 

 

 

 

 

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