研究成果:1号の1
研究成果根釧農試 研究通信 創刊号
(1992年11月発行)
1 放牧期における養分摂取量の把握と乳成分低下要因の解明1. 放牧利用技術の問題
放牧利用による乳牛飼養は、栄養価の高い粗飼料を低コストで給与できる飼養形態のlつです。しかし、放牧地の牧草生産力の季節変動は大きく、また、放牧草の栄養価は様々な要因によって変動するため、放牧を主体とした飼養形態では、泌乳牛の栄養管理を適切に維持しがたく、乳量や乳成分が低下する等の問題点を抱えています。そこで、放牧地の有効な利用方法である時間制限放牧飼養における飼料給与基準の策定、ならびに低コスト飼養技術のlつである放牧主体飼養における乳成分の低下要因の解明を試みました。
2. 時間制限放牧における乾物摂取量の季節変動
①経産牛をOG主体草地に3時間および6時間(3時間、2回)放牧して、放牧期間における放牧地からの乾物摂取量と乳量、乳成分の推移を調査しました。 ②3時間制限放牧では、春季と夏季における放牧地からの乾物摂取量には差がみられず、1日当りの放牧地からの乾物摂取量は5.0kg前後でした。 ③一方、6時間制限放牧では、放牧地からの乾物摂取量は放牧草の栄養価等の影響を受け、春季に比べ夏季において低い値を示しました。しかし、牧草サイレージを併給することにより放牧期間を通じて養分摂取量の変動は小さくなりました。
3. 時間制限放牧における乳生産
①3時間制限放牧では、放牧期間における乳生産の変動は少なく、試験期間中の平均乳量、乳脂肪率および乳蛋白質率はそれぞれ26.8kg、4.07%、3.09%でした。 ②一方、6時間制限放牧では夏季間に放牧地からの乾物摂取量は低下したものの、牧草サイレージを給与することにより安定的な乳生産が得られることが認められました。試験期間中の平均乳量、乳脂肪率および乳蛋白質率はそれぞれ26.1kg、3.86%、3.22%でした。 ③時間制限放牧における分娩後日数とFCM量との関係から、l乳期の乳生産量を推定した結果、3時間および6時間放牧のいずれにおいても濃厚飼料1.6t(乾物)で8,000kgの乳生産が可能であることが示されました。
4.時間制限放牧におけるTDN給与基準(表1)
①養分摂取量と乳生産との関係に基づいて、時間制限放牧におけるFCM8,000kgの乳生産に必要な併給飼料からのTDN給与基準を示しました。
5.放牧主体飼養における養分摂取量(表2)
①泌乳前期の経産牛をOG主体草地に3時間(制限放牧)および15時間(昼夜放牧)放牧し、養分摂取量について比較・検討しました。 ②昼夜放牧では、春季から夏季にかけて放牧地からの乾物およびTDN摂取量は低下しました。 ③このため放牧期間中のTDN充足率は、時間制限放牧では100%以上の値で推移したのに対して、昼夜放牧では夏季間のTDN充足率が86~92%まで低下しました。 ④また、TDN摂取量/CP摂取量の比、摂取飼料中のNDF含量、ADF含量とも昼夜放牧の方が時間制限放牧に比べ低い値を示しました。
6.放牧主体飼養における乳成分の推移(表2)
①昼夜放牧区および制限放牧区の乳脂肪率は、それぞれ3.46%、4.00%であり、制限放牧に比べ昼夜放牧区の乳脂肪率は試験期間中低い値で推移しました。また、夏季における乳蛋白質率は、昼夜放牧区および制限放牧区でそれぞれ2.90%、3.08%であり、乳蛋白質率も昼夜放牧区で低い値を示す傾向がみられました。 ②摂取した窒素の乳中窒素への利用効率は、昼夜放牧および制限放牧においてそれぞれ21%、24%であり、昼夜放牧区のほうが低い値を示しました。 ③夏季間、昼夜放牧における血中の尿素態窒素濃度(BUN)は、基準値(14㎎/dl)を上回わりました。また、昼夜放牧ではTDN摂取量/CP摂取量の比の低下にともないBUN濃度が高くなる傾向がみられ、放牧主体飼養では蛋白質の利用効率が低いことが伺われました。 ④これらのことから、放牧主体飼養時における乳成分の低下は、摂取飼料の繊維質不足およびエネルギーの不足によるTDNと蛋白質摂取量の不均衡によるものと推察され、放牧主体飼養では、繊維質飼料の補給やTDN摂取量/CP摂取量の比を改善する必要があると考えられました。
表1 時間制限放牧におけるTDNの給与基準
春季(6月) |
夏季(8月) |
|||||
FCM量(㎏/d) |
33 |
27 |
21 |
33 |
27 |
21 |
TDN必要量、㎏ |
17.2 |
14.7 |
12.3 |
17.2 |
14.7 |
12.3 |
3時間制限放牧 |
||||||
放牧草からのTDN摂取量、kg |
3.7 |
3.7 |
3.7 |
3.4 |
3.4 |
3.4 |
併給飼料から給与すべきTDN量、kg |
13.5 |
11.0 |
8.6 |
13.8 |
11.3 |
8.9 |
6時間制限放牧 |
||||||
放牧草からのTDN摂取量、kg |
9.0 |
8.7 |
8.5 |
6.2 |
6.0 |
5.7 |
併給飼料から給与すべきTDN量、kg |
8.2 |
6.0 |
3.8 |
11.0 |
8.7 |
6.6 |
表2 昼夜放牧と制限放牧の飼料摂取量および乳生産の比較
試験期間 |
6.13- 6.27 |
6.28- 7.18 |
7.19- 8.08 |
8.09- 8.29 |
試験期間 |
6.13- 6.27 |
6.28- 7.18 |
7.19- 8.08 |
8.09- 8.29 |
||
放牧草乾物量 ㎏ |
昼夜 |
20.2 |
18.1 |
13.2 |
13.2 |
FCM量 ㎏/d |
昼夜 |
30.5 |
31.0 |
28.9 |
27.2 |
制限 |
5.4 |
4.8 |
4.9 |
4.8 |
制限 |
33.1 |
33.2 |
32.7 |
28.6 |
||
全飼料TDN摂取量 kg |
昼夜 |
21.6 |
20.2 |
13.0 |
13.0 |
乳脂肪率 % |
昼夜 |
3.23 |
3.57 |
3.52 |
3.50 |
制限 |
17.3 |
17.8 |
17.1 |
15.7 |
制限 |
3.96 |
4.04 |
4.23 |
3.78 |
||
TDN摂取量/CP摂取量 |
昼夜 |
4.9 |
3.9 |
3.2 |
3.4 |
乳蛋白質率 % |
昼夜 |
3.02 |
2.84 |
2.90 |
2.90 |
制限 |
4.7 |
4.6 |
4.3 |
4.4 |
制限 |
2.95 |
2.92 |
2.92 |
3.08 |
||
摂取飼料中のADF含量 % |
昼夜 |
24.1 |
22.9 |
22.5 |
22.0 |
BUN、㎎/dl |
昼夜 |
10.8 |
13.8 |
23.7 |
21.6 |
制限 |
27.6 |
28.9 |
29.0 |
27.4 |
制限 |
16.7 |
10.4 |
12.4 |
14.0 |
||
TDN充足率 % |
昼夜 |
138.6 |
124.5 |
85.9 |
91.5 |
|
|||||
制限 |
104.0 |
106.6 |
104.8 |
106.8 |