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酪農試験場

研究成果:1号の2

研究成果根釧農試 研究通信  創刊号

1992年11月発行)

2 草地型酪農における粗飼料の受委託生産の方向と成立条件

1.

はじめに

粗飼料の受委託生産が注目されています。畜産物輸入自由化に備えての一層の規模拡大や、1番草収穫における厳しい労働ピークの緩和等のためです。受委託は今後とも増加すると予想されますが、天候変動の影響を最小限に抑えつつ適期内収獲を実現し、委託側・受託側双方が安定的にメリットを受けることができるような受委託の仕組みを確立することが緊急の課題となっています。

. 委託の特徴、経済性及び課題

サイレージ収穫を委託している経営は、主に委託の動機により、多頭化型、機械投資抑制型、労働軽減型、緊急対応型の4つに類型化できます。多頭化型と機械投資抑制型は所得や機械経費等の経済的な効果を重視しますが、労働軽減型と緊急対応型は労働過重の改善等を評価します。また、多頭化型は委託を長期的に継続する意向を持ちますが、緊急対応型は病気等から回復するまでの一時的対応で、他の2類型は両者の中間です。

機械投資抑制型以外では、大部分の経営がハーベスタまたはロ一ドワゴンを所有しています。ロールサイレ一ジを除く1番草サイレージの委託割合は労働軽減型・緊急対応型では45%以下と低くなります。これらに、受託側の年間操業に関する配慮の強弱を併せ考えますと、多くの農家は「自家作業で収穫できない分を委託する」という考え方を持っており、多頭化型以外では受託組織に対する配慮はやや薄いように思われます。

機械投資抑制型と多頭化型の代表事例について、委託の経済性を検討しました。

ha当たり粗飼料生産費についてみますと、機械投資抑制型の場合、全面自家調製から全面委託に転換することにより、205千円から124千円に、多頭化型の場合は委託を活用した多頭化(経産牛92頭から152頭ヘ)により233千円から207千円へと低下します。農業所得は、機械投資抑制型(酪農部門)では5,381千円から9,286千円に、多頭化型では11,897千円が28,975千円に、それぞれ増加が期待できます。

委託側が負担し得る料金の上限を試算(刈取~鎮圧、一部中古機械利用)しますと、多頭化型では50千円、機械投資抑制型では57千円でした。委託側からみた受委託の問題点は、①良質粗飼料の安定的な確保(天候不順への対応等)に不安がある、②受託組織が長期的に継続するかどうかが不確かである、③状況変化に応じて受委託の仕組みを再編する機能が確立していないとなります。

. 受託の特徴、経済性及び課題

受託組織は、農協直営型、農協介在型企業、独立型企業、農家の4つに類型化できます。農協直営型は受託を長期的に継続する信頼性は高いですが、一時的な天候変動への対応では敏速さにかける嫌いがあります。独立型企業はこの反対の特性を持ちますが、労働条件は過酷になりがちで、農協介在型企業では両者の中間となります。年間操業の状況をみると、6~11月に業務が集中し、とくに12~3月にかけては極端に業務が減少するため、雇用労働の年間就業が困難になっています。

受託作業では契約面積を適期内に処理するという要請は厳しく、作業を最大限計画通りに進めうる運営方法が望まれます。そこで、①天候変動の影響を最小限に抑えるため予乾はほとんど行わず(一部蟻酸添加)、②高水分原料草を収納できかつ詰め込み能率が高いことからバンカーサイロが主な貯蔵形式となります。

このような条件のもとでの標準的な作業能率は、牽引式体系で7.5ha/日、自走式体系で15.0ha/日となり、1番草の適期内最大処理面積は各々180ha、360haとなります。

牽引式体系、自走式体系について、受託側が受託し得る下限料金を試算すると、それぞれha当たり50千円、40千円(1番草の適期内最大処理面積、一部中古機械利用、刈取~鎮圧)となります。自走式の場合は限度まで受託面積を拡大すれば現行料金で利益が生じますが、牽引式の場合は限度まで受託してもどうにか収支均衡する状況で、現行料金水準は牽引式にとって厳しいといえます。

受託側からみた受委託の問題点は、①雇用労働力確保のため年間操業する、②受託面積を安定化させる、③天候変動等に対応できるようなバックアップ体制が必要なこと、が挙げられます。

. 受委託の成立条件とシステム化の方向

受委託が成立するための基本的な条件は、委託側・受託側が受委託によって安定的なメリットを受けることであり、なかでも経済的なメリットは重要です。双方に経済的なメリットが生まれるかどうかは料金水準によるところが大きく、この料金水準についてはさきにみた委託側の上限料金と受託側の下限料金を利用して適正な水準を検討することができます。

料金低減の方法として、委託側では①作業能率を向上するための圃場条件等の整備、②品種の組み合わせによる作業適期の拡大、③2番草の収穫委託、④労働力や機械に余力がある経営の出役・レンタル、また受託側としては①コーンの収穫等受託作業の拡大、②機械・労働力の臨時的なチャーター、が考えられます。 今後受委託に依存する経営が増加するにつれて受委託の長期的な安定性はますます重要になってきます。これらの経営は委託を前提とする経営システムを構築するため、受委託がなくなった場合の混乱が大きいからです。また料金設定や料金の低減策を実行するには委託側、受託側双方の協力関係が重要であり、この点からも受委託システムの形成が必要となります。この受委託システムが果たすべき役割として、①作業調整・料金調整等、受委託を円滑に運行するための各種の調整、②受託組織の年間操業の支援、③作業の遅延等をバックアップする体制の整備が考えられます。この受委託システムの運営に関して、農協は、①システムの事務局的機能を担い、②業務委託等により受託組織を支援し、③営農指導部門との連携をとる等の面で中心的な役割を担うことが期待されます。

5. おわりに

「受委託」は英語ではContractつまり「契約」であり、これは受委託を考えるにあたり、次のような基本的なポイントを示唆しています。①契約内容(契約不履行の際のペナルティを含む)を明確にする。②契約内容は両者の合意により変更可能である。③両者は対等であり、相互の理解と信頼の上に契約は成り立つ。④トラブルが生じた場合の公正な解決を期するための機関が必要である。

現状でこの考え方を厳格に適用すると混乱を招く場面があるかもしれません。しかし知恵を出し合いながら徐々にこれに近づくことが、安定的な受委託システムを作り上げるうえで必要です。

(粗飼料生産の受委託システムの組織機構と運営及び支援体制の図 省略)