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酪農試験場

研究成果:1号の3

研究成果根釧農試 研究通信  創刊号

1992年11月発行)

3 草地におけるリンの効率的な施肥時期

1. 研究の背景とねらい

リンは有限な資源であり、我が国はその全量を外国からの輸入に依存しています。北海道の大規模草地農業地帯には多量のリン施肥を必要とする火山灰土壌、酸性土壌が広く分布しており、リン資源の効率的な施用法が求められています。 そこでこの試験では、北海道の代表的な草地土壌において、最も効率的に牧草に吸収・利用されるリンの施肥時期を見いだし、それに基づいた施肥体系を構築しました。

2. リン施肥時期は「鉱質土では早春全量、火山性土では均等分施」が効率的

土壌(鉱質土と火山性土)と草種(オ一チャードグラスとチモシー)を変えて、リン施肥時期(早春全量施用区、各番草刈取後全量施用区、そして早春と各番草刈取後の均等分施区)の影響を牧草のリン吸収量(乾物収量×リン含有率)によって評価しました(図l)。その結果、鉱質土では両草種とも早春全量が最大でしたが、火山性土では両草種ともに2回または3回の均等分施が最大となりました。このように鉱質土では早春全量、火山性土では分施がそれぞれ最大というように土壌の違いが大きく、オーチャードグラス・チモシーの草種の違いの影響は見られませんでした。

3. 土壌による違いはリン吸着力と水分環境が主な原因

リン施肥時期に影響する土壌の要因として、第一にリン吸着力の違いがあります。両土壌に一定量のリンを添加し低温で培養しながら土壌溶液に溶けだすリン濃度を追跡すると(図2)、リン酸吸収係数が900と吸着力が小さい鉱質土ではリン添加直後から高濃度になり次第に低下するものの、lか月時点でも数ppmを維持していたのに対し、リン酸吸収係数が1500以上と吸着力が大きい火山性土では添加直後だけは比較的高濃度になったものの、lか月時点では非常に低濃度となりました。このようにリン酸吸収係数の違いによって施肥後の時間の経過に伴う両土壌溶液のリン濃度には違いが見られ、火山性土における分施の有利性が立証できました。

第二の要因として、その土壌の水分環境の違いが挙げられます。鉱質土の立地する天北地方では夏期間の降水量の年次変動が大きく、しばしば旱魃状態になります。図3の降水量と牧草リン含有率の関係で示されるように、降水量の少ない年次では牧草のリン含有率も低くなります。つまり、鉱質土では夏期間には土壌水分が少ないためにリンの施肥効率が悪いこと、逆に土壌水分が潤沢な早春には施肥効率が高いことを示しています。

なお火山性土の立地する根釧地方では土壌水分が通年的に潤沢である一方、越冬条件が天北地方に比べて厳しく、早春には根のリン吸収力が低下することも分施の施肥効率が高くなる原因となります。

4. 土壌酸性化によって分施の効率が高まる

鉱質土の草地において、経年的に酸性化させる処理区(一Ca区)と酸性化を防止した区(+Ca区)を設け、リン施肥時期の影響を比較すると(図4)、+Ca区では早春全量区が分施区より効率的でしたが、-Ca区では酸性化の進行に伴ってその関係が逆転し、最終的に分施区が早春全量区を上回りました。このように酸性化によって分施区の効率が高まる原因としては、土壌側では酸性化に伴って活性化するアルミニウムや鉄への施肥リンの吸着、作物側では根の伸長阻害などが推察されました。

5. 従来の早春全量一本のリン施肥体系から脱却し、効率化が進む

これまで北海道では、リンは早春全量施用が基本的に推奨されてきましたが、本試験によって、鉱質土では早春全量、火山性土では均等分施がより効率的であることが明らかになりました。なお、草地土壌の経年的な酸性化に伴って分施の効率が高まりましたが、酸性化に伴って牧草のリン吸収は低下するので、この場合は酸性化防止策を優先的に講じるべきです。

(省略した図)

図1 リン吸収量に及ぼすリン施肥時期の影響

図2 火山性土、鉱質土における土壌溶液リン濃度の推移

図3 天北地方における2番草生育期間の積算降水量と牧草体リン含有率の関係

図4 酸性化に伴う分施区と4月全量区のリン吸収指数の推移