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酪農試験場

時の話題:92の2

根釧農試 研究通信  創刊号

1992年11月発行)

**時の話題**

2.中国・黒竜江省見聞録

酪農第一科

1992年6月14日、気温30度を越える暑さの中、北京空港に到着、機内で飲んだワインがたちまち汗となり吹き出してきた。しかし、汗は服を濡らすことなく瞬く間に飛んでいってしまった。中標津からきた私にとって乾いた北京の空気がたいへん羨ましく思えた。しかし、この湿度の低さがこれから訪れる黒竜江省の農業にとって重要な問題であり、旅行中の私にとっても大変な問題となった。これから2週間北海道黒竜江省科学技術交流協会の畜産共同研究代表団の一員として黒竜江省の畜産に接する機会に恵まれた。

帝政ロシア時代の名残を漂わせている合爾浜の街を後にし、松花江の鉄橋を渡り、農村地帯の中を汽車は齊齊合爾に向けて走り始めた。トウモロコシや麦、馬鈴薯の畑に混じって水田が車窓を流れていく。黒竜江省でも米を生産しており、「パサパサした北京の米よりも美味しい」と評判が良いそうである。黒竜江省は新潟県とも技術交流を行なっており、海外との技術交流を積極的に実施する姿勢が伺えた。果して我が北海道政府はどうであろうか?

やがて景色は畑から草地へと変わり、牛や羊さらには豚やあひるまでが地平線の果てまで続いていそうな草地に放たれている。これら家畜の群れの後にl人の農夫が付いているだけで、柵などはみあたらない。おかげで線路脇の草は綺麗に食べ尽くされ、フェヤーウエーの中を汽車が進んでいるようである。日本のゴルフ場の芝刈にも家畜を導入してはどうだろうか。羊の喫食草高は低い。

広い草地の中には沼が点在しており、いぐさの様な草が周囲を覆っている。合爾浜と齊齊合爾の距離は約250kmあるものの、標高差はわずか数十メートルで水が流れず沼地を形成している。しかし、である。湿地の水は天に向かってどんどん流れている。湿地の水と年間降水量400mm前後という乾燥した気象条件により沼の周辺は干上がり、青々とした草原は次第に白い裸地に変身しつつある。まさしくアルカリ土壌、pHは8.0~9.0までに達するそうである。

草地の大半は自然草地であり、多種多様の草が生えているが、中標津でみかけるチモシーやクローバーなどは全く見あたらない。この付近では羊草というイネ科草が、主なイネ科牧草として利用されてきたようである。羊草鎮(鎮=村)という村もある。その羊草も土壌のアルカリ化には抗しきれず、耐アルカリ性牧草の導入が湿原草地改良とともに黒竜江省畜牧研究所の草地部門の主な仕事になっている。

車窓の外を流れる景色が、草原から再び畑に変わりはしめるとまもなく、汽車は齊齊合爾に到着した。ホームには黒竜江省畜牧研究所の方々が出迎えて下さり、握手・握手である。研究所は齊齊合爾市内のフラルジにあり、研究所に到着するやいなや食堂に案内された。テーブルには中華料理が所狭し並べられ、その横にはビールと白酒の瓶が出番をまっている。50度を越す白酒で乾杯・乾杯!熱烈歓迎。何本もあった白酒はすべて胃に納まり、19時に歓迎会は終了した。これで2次会があったらと思うとゾットした。目の充血のせいだろうか、それとも過去を憂いてか、満州事変の激戦地、フラルジの夕陽は赤々と地平線へ沈んでいった。

中国の中でも黒竜江省は酪農の盛んな省であり、畜牧研究所が中心的な研究機関になっている。研究所の研究は、寒冷・乾燥地帯における牧草および家畜生産性の向上を中心に行なわれている。乳牛の平均乳量は20kg/d前後であるが、濃厚飼料を乳量の1/3も給与している。トウモロコシとアルファルファの生産力を高め、濃厚飼料への依存割合の低下が重要な課題となっており、厳しい気候条件に如何に順応するかという点で根釧の酪農と共通している。酪農が展開する条件の1つとして気候条件の厳しさが挙げられるのではなかろうか。気象条件が悪いからこそ酪農が営める?!

今日も晴天、気温は25度を越えている。昨夜の白酒と乾いた空気のおかげで喉はカラカラ。早速、昼食にビールが用意される。ビールの陰に白酒の瓶がうれしそうに顔をのぞかしている。「ウヒャ」と思うまもなく白酒が。中国2週間の旅、ヘマトクリット値がかなり高くなったようであった。