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酪農試験場

根釧農試研究通信:創刊号品種2

根釧農試 研究通信  創刊号

(1992年11月発行)

**新牧草・飼料作物優良品種および馬鈴しょ新品種の紹介**

2 ばれいしょ新品種「ムサマル」

ジャガイモシストセンチュウ抵抗性の品種はこれまでに、でん粉原料用のトヨアカリ、生食用のキタアカリ、エゾアカリが育成されましたが、加工食品用の品種はありませんでした。根釧農業試験場では、シストセンチュウ抵抗性を持ち、油加工適性の高い加工食品用品種の育成を目的として昭和55年に「ツニカ」を母、「根育20号」を花粉親として交配を行いました。昭和61年まで場内で選抜を重ね、その後平成3年まで道内の各試験場、現地試験圃において「根育22号」としてさらに栽培試験を行いました。その結果、シストセンチュウ抵抗性を持ち、収量、でん粉価が高く、大粒であることが認められ新品種となりました。

「ムサマル」という品種名の由来は、育成地中標津町にそびえる秀峰武佐岳の「むさ」とイモの形が丸みを帯びていることから、両者を組合せて命名されたものです。(漢字表記:武佐丸)

1.特性の概要

草型はやや開張で、茎長は農林1号より長くホッカイコガネ並です。葉の色はホッカイコガネよりやや淡いです。開花期のころ頂葉基部が退緑化し、葉縁が巻くことがあります。

花数はホッカイコガネ並で、花色は赤紫で、花弁の先端が白です。塊茎の特性を表lに示しました。ホッカイコガネと比べると、扁平度が弱く厚みがあります。

肉色はホッカイコガネと同じ淡黄です。

初期生育、塊茎の早期肥大性は、ともにホッカイコガネに勝ります。枯凋期はホッカイコガネ並の中晩生です。休眠期間はホッカイコガネよりやや長くなります。

褐色心腐の発生はホッカイコガネより多く農林1号より少ないです。中心空洞の発生は、ホッカイコガネより多く農林1号並です。二次生長は微程度発生することがありますが、裂開は発生しません。 ジャガイモシストセンチュウに抵抗性で、発生圃場において、シストの形成がほとんどみられず、土壌中の卵密度は植付前の3割以下に低下します。疫病の初発生日および病斑の拡大経過はホッカイコガネとほぼ同じです。疫病菌による塊茎腐敗にはエニワ並の抵抗性”強”です。最近、採種で問題になっているYウイルスのT系統に抵抗性があります。そうか病に対しては、ホッカイコガネおよび農林1号などの既存品種同様罹病します。

収量等に関して根釧農試の成績でみると、ホッカイコガネに比べ株当り上いも数は約l個少ないが、一個重は20グラム以上大きく144グラムです。このため、上いも重(Sサイズ以上)は7%多収ですが、中以上いも重(Mサイズ以上)では11%多収になります。いも重歩合では、Mサイズ以下はホッカイコガネより低く、3Lサイズはホッカイコガネの17%に対して27%と10%高くフレンチフライ向きの大きなイモがたくさん穫れる大粒、多収の品種です。でん粉価はホッカイコガネより2%以上高く、加工用品種の中では最も高い値を示します。他の試験場での成績も根釧農試と同様の傾向です(表2)。

多肥による増収率は、ホッカイコガネよりも高いが、茎長の伸び率も大きいためホッカイコガネより倒伏が多くなります。また、密植により増収しますが、大いもの割合が低下します。

品質特性については、水煮後黒変は微でホッカイコガネより多いが、農林1号より少ないです。食味は農林1号より勝り、ホッカイコガネ並の中の上です。フレンチフライ加工適性に関しては(表3)、目がやや浅いため剥皮および切断による歩留りは高いです。フライの褐変はホッカイコガネ並に少なく、肉が淡黄色であるため黄色く仕上がります。また、でん粉価が高い点で、ホッカイコガネより優れています。

2.栽培上の注意

栽培適地は北海道一円ですが、褐色心腐が発生することがあるので、乾燥しやすい圃場への作付は避け、十分な培土を行ってください。

施肥量、栽植密度、疫病防除などの栽培管理はホッカイコガネに準じて行います。前述のように、倒伏が増加するので多肥は避けた方がよいです。また密植は、フレンチフライ用の大きなイモが減少するので望ましくありません。本品種はシストセンチュウ抵抗性ですが、抵抗性を破る寄生型の出現を促す恐れがあるので、他の作物との輪作を心がけ、連作は避けて下さい。

ムサマルはシストセンチュウ抵抗性を持つ初めての加工用品種(フレンチフライ向け)としてセンチュウ発生地帯での普及が期待されます。またセンチュウが発生していない地域でも、前述したように優れた特性を持つ品種なので既存の品種に変えての普及も見込まれます。食味がよく、黄肉(カロチンによる着色)の品種(キタアカリ・ホッカイコガネなど)の評判が高まってきており(ムサマルも黄肉色である)、加工用ばかりでなく、生食用としての利用も考えられます。

表1 塊茎の特性

表2 生育および収量調査

注 1)根根農試:昭和60年~平成3年の平均。

十勝農試:昭和61年~平成3年の平均。その他:昭和63年~平成3年の平均。

2)枯凋期の()印は霜による枯凋を含む。

表3 剥皮、切断によリ歩留りおよびフレンチフライ加工適性

注)包丁で剥皮、トリミング後、剥皮歩留りを調査し、ポテトカッターを用いて1cm角の棒状に切り、製品(四角柱状の切片)とくず片(四角柱の一部が欠けた小片)に分け、歩留りを調査した。