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酪農試験場

研究成果:2号の2

研究成果

根釧農試 研究通信  第2号

1993年3月発行)

乳牛の脂肪肝

1. 背景とねらい

高泌乳牛では養分摂取と乳生産との不均衡から、ケトージス、脂肪肝、第

4胃変位、起立不能症、繁殖障害等の生産病に陥りやすく、特に脂肪肝はさまざまな生産病と関連が深いといわれています。そこで、この試験では牧草サイレージ主体飼養における分娩前後の養分充足と、肝臓の脂肪沈着割合、肝機能および生産病との関連性を明らかにしました。

2. 泌乳初期のエネルギー不足で脂肪肝

経産牛42頭を、分娩後2週の肝臓の脂肪沈着割合をもとに、A群;20%以上(7頭)、B群;10~19%(6頭)、C群;9%以下(29頭)に群分けし比較検討した結果、肝臓の脂肪沈着は、分娩前には各群ともほとんどみられませんでしたが、分娩後2週にはC群の3%に対し、A群では27%となりました(表l)。A群の乾物摂取量およびTDN摂取量はC群に比べ少なく、TDN充足率も67%となりました(表2)。また、A群では体脂肪動員の指標である血清遊離脂肪酸濃度が分娩後著しく上昇し、ケトン体濃度の上昇や血糖濃度の低下とともに、摂取エネルギーの不足を反映したものと考えられました(表3)。これらから、脂肪肝の主たる要因は、泌乳初期の摂取エネルギーの不足により、体脂肪が遊離脂肪酸として肝臓に過剰動員されたことにより、肝臓で処理しきれなくなり中性脂肪として蓄積したためと考えられました。

3. 脂肪肝で肝機能が低下

肝機能検査の異物排泄能試験の1つであるBSP試験では、A群の分娩後2週に停滞率(30分値)が21%、半減時間が10分と著しい高値がみられ、肝機能の低下か明らかでした(表4)。しかし、GOT、γ-GTP、総ビリルビン濃度では軽度の上昇がみられたに過ぎず、この試験で重度の脂肪肝がみられず、合併症も少なかったことによるものと考えられました。

表1  肝臓の脂肪沈着割合

頭数、頭

分娩前2週、%

分娩後2週、%

分娩後4週、%

7

1>

27.1±5.9

20.0±11.8

6

1>

14.2±2.3

7.4 ±7.3

29

1>

3.2±2.8

0.9±1.8

表2  養分摂取状況と体重

乾物摂取量kg

TDN摂取量kg

TDN充足率%

体重kg

分娩

前2週

A

13.5a

9.2

131

756a

B

12.3b

7.6

110

720

C

12.7

8.0

116

693b

分娩

後2週

A

16.8

13.0

67Aa

653

B

17.6

13.9

79b

627

C

18.6

14.7

84B

621

分娩

後4週

A

18.8

14.7

76Aa

635

B

19.2

15.3

86b

626

C

20.1

15.9

90B

616

3 血液成分

遊離脂肪酸

μEq/L

ケトン体

μmol/L

血糖

mg/dl

分娩

前2週

A

165a

507

62.1

B

372b

504

64.7

C

263

553

62.3

分娩

後2週

A

1306Aa

1562A

51.7Aa

B

712b

905

58.7b

C

543B

770B

60.4B

分娩

後4週

A

649A

2076A

55.7a

B

629A

887

65.2b

C

344B

658B

62.2b

4. 脂肪肝は繁殖にも影響する

受胎までの日数は、A群では131日とC群の97日に比べ34日長かった(表5)。このように脂肪肝で繁殖性が低下するという他の報告でも分娩間隔が33~37日長くなったと述べられており、この試験の結果とほぼ同様でした。これらより、中等度の脂肪肝でも繁殖性に影響を与えることが示されました。

また、生産病の発生率でもA群は86%と高く、脂肪肝が種々の生産病と関連があるとするこれまでの報告と同様でしたが、脂肪肝と疾病発生との因果関係は必ずしも明らかではなく、今後の検討が必要と考えられました。

5. 泌乳初期の高い乳脂肪率に注意を

泌乳成績では、乳量は各群間に差がみられませんでしたが、A群の分娩後2週では4%補正乳量が39.7kg、乳脂肪率が4.76%と他群より高くなりました(表6)。このように泌乳初期に乳脂肪率が高くなったのは、体脂肪由来の長鎖脂肪酸であるC18脂肪酸の増加によるものと推察され、体脂肪動員のlつの目安になると考えられました。

6. 泌乳前期のBCSの低下は、「1」以内に

分娩前2週から分娩後4週までの体重の減少は、A、B、C群各々121、94、77kgと、A群で大きな減少がみられました(表2)。体重の減少は外見的にはボディコンディションスコアー(BCS)として評価され、スコアーlの低下は体重56kgの減少と報告されています。この試験での分娩前後の体重の減少は胎児の体重等を考慮しても、ボディコンディションスコアーl以上の減少であったものと推察されます。

これらから、脂肪肝の予防には、乾乳後期から泌乳前期にバランスのとれた飼料給与により乾物摂取量を高め、ボディコンディションの低下をできる限り少なくすることが大切と考えられます。

表4. 分娩後2週のBSP試験

停滞率(

30分値)%

半減時間 分

A

21.l

±9.2A

10.3

±3.5Aa

B

6.7

±3.3B

6.5

±2.0b

C

4.5

±2.9b

5.3

±1.6b

5. 受胎日数と生産病の発生頭数(率)

A

B

C

受胎日数

131a

82b

97b

繁殖障害

頭(%)

3

43

0

0

7

24

胎盤停滞

頭(%)

1

14

1

17

1

3

起立不能症

頭(%)

1

14

0

0

l

3

ケトージス

頭(%)

1

14

0

0

0

0

頭(%)

6

86

1

17

9

31

6. 泌乳成績

乳量

kg

補正乳量

kg

乳脂肪率%

乳蛋白率%

分娩

後2週

A

36.1

39.1a

4.76A

3.17

B

35.9

35.7

3.90B

2.98

C

34.9

35.4b

4.09B

3.07

分娩

後4週

A

37.9

38.0

4.19Aa

2.77

B

35.7

36.2

3.74B

2.85

C

36.3

35.3

3.82b

2.87

(表26の異文字間に有意差あり。ABP0.01abP0.05