研究成果:2号の4
根釧農試 研究通信 第2号(1993年3月発行)
研究成果
4 簡易草地更新機の開発
北海道における草地の更新割合は年間6%にすぎず、定期的な更新が行なわている草地は極めて限られています。更新が円滑に進まないため、株化や裸地化、ルートマットの集積、土壌の理化学性の悪化、雑草の侵入などが進み、量的・質的に生産性の低下した草地が多くみられます。
更新が円滑に行なわれないのは経費や傾斜地などの問題があるためです。安価な更新方法として、平坦地を対象に作溝・部分耕と追播による簡易更新技術の研究が進められました。また、追播の場合、マメ科牧草(アカクローバ)の定着は比較的安定し、その技術は一部地域で使われています。しかし、イネ科牧草は除草剤を使わない場合には不安定な結果が多いようです。
部分耕方式による簡易更新は図lにあるように、草地を部分的に耕耘し、そこに施肥・播種して牧草を定着させようとするものです。通常の耕起更新(慣行法)のように草地全面を耕起しませんから、草地の生産性を一気に改善することはできません。しかし、傾斜地など土壌侵食の恐れがある場合には、一時的ではあるにせよ裸地状態になってしまう耕起更新より有利です。さらに、この方法は更新経費の節減の効果も期待できます。しかし、かなりの面積を占める傾斜草地に対する実用機は開発されていません。そこで、本試験は傾斜地等も対象とした部分耕方式による更新において耕耘幅、耕深および砕土方式などを検討し、既存のトラクタで作業可能な簡易更新機に必要な諸条件を明らかにしようとして実施しました。以下は結果の概要です。
1. 簡易更新機
①ルートマットの破砕、土性などにより異なりますが5mm以下の土塊割合を60~ 70%程度 確保するには、耕耘爪は「なたづめ」、耕耘ピッチは1~2cm程度が良い。また、耕伝部の土壌は飛散し易く、このため種子の発芽が不良になることがあります。左右へ土が飛散するのを防止するカバーが必要です(図2、表l)。 ②部分耕の耕耘幅・耕深は播種牧草の出芽・定着と密接な関係があります。これは部分耕の耕耘幅が狭いと播種牧草による抑圧を多く受けるためですが、耕耘幅は30cm程度が適当です。作土層の土量を増加させるため、耕深は12cm程度とします。ケンブリッジローラなどによる播種溝深はlcm程度、溝間隔は3cm程度が望ましく、覆土を行い、鎮圧を十分行なう必要があります(図2)。 ③施肥・播種部にロール式繰り出し機構を採用しましたので、傾斜による施肥・ 播種量の誤差は少なく、平坦地および傾斜地での利用が可能です(表2)。
2. 牧草の播種量・生産性
①部分耕による播種で、プラウによる播種床(慣行法)並の出芽数および立毛数を確保するためには、オーチャードグラスおよびメドウフェスクでは標準量(2kg/10a)のl.5~2倍の播種量が必要です。冬枯れの少ない道北地方で近年栽培面積が増加しているペレニアルライグラスの場合、出芽率が高く、初期生育も旺盛ですから播種量は標準量で十分です(表3)。 ②本試験で開発した部分耕試作2号機のもつ機能で出芽・定着が可能です。前述のとおり、本方式による簡易更新によって全面耕による耕起更新の改良効果には及びませんが、土壌侵食の恐れを軽減させながら、草地の生産性を底上げすることが可能です。
表1 主要諸元
型式 部分耕試作2号機 |
|||
全長(mm) |
2,770 |
整地輪形状 |
ケンブリッジローラ |
全幅(mm) |
1,950 |
〃 幅(mm) |
前360,後300 |
全高(mm) |
1,400 |
整地輪直径(mmφ) |
270 |
耕耘幅(cm) |
28 |
施肥・播種方式 |
接地輪駆動 |
耕深(cm) |
12 |
〃 繰出方式 |
溝ロール |
爪形状 |
なたづめ |
〃 ホッパ容量(l) |
110 |
耕耘軸回転数(rpm) |
337(PTO540) |
鎮圧輪形状 |
ゴムローラ |
表2 施肥量
全減速比 |
水平 |
傾斜8度1) |
傾斜15度1) |
|||||
繰出量2) g |
施肥量ha/10a |
繰出量2) g |
施肥量ha/10a |
誤差3)g |
繰出量2) g |
施肥量ha/10a |
誤差3) g |
|
0.30 |
25.1 |
50.53 |
25.1 |
52.77 |
4.4 |
25.5 |
53.75 |
2.0 |
0.35 |
28.1 |
58.67 |
28.1 |
59.23 |
1.0 |
29.8 |
62.74 |
1.8 |
0.41 |
34.0 |
68.63 |
34.0 |
71.58 |
4.3 |
34.0 |
71.58 |
1.5 |
0.51 |
49.7 |
98.25 |
49.7 |
104.70 |
2.2 |
49.7 |
104.70 |
1.0 |
0.59 |
49.7 |
98.25 |
49.7 |
104.70 |
2.2 |
49.7 |
104.70 |
1.0 |
0.68 |
56.0 |
113.97 |
56.0 |
117.90 |
3.4 |
56.0 |
117.90 |
0.9 |
1)左傾斜, 2)接地輪1回転当たり,3)水平に対する比
表3 各草種の出芽・定着状況および草量
播種床 |
播種量 |
草種・品種 |
出芽率 3) |
定着数 4) |
定着率 4) |
草量 4 ) |
雑草率 4) |
% |
本 /㎡ |
% |
Dmg/ ㎡ |
% |
|||
部分耕 1) |
標準 2kg/10a |
OG ・ケイ |
38.4 |
650 |
87.6 |
25.2 |
51.2 |
OG ・オカミドリ |
30.5 |
597 |
96.7 |
32.9 |
45.6 |
||
MF ・タミスト |
42.1 |
377 |
100.0 |
48.4 |
45.6 |
||
PR ・フレンド |
97.7 |
380 |
59.4 |
106.0 |
14.6 |
||
平均 |
52.1 |
501 |
85.9 |
53.1 |
39.3 |
||
部分耕 1) |
標準 × l.5 |
OG ・ケイ |
42.0 |
1,147 |
94.2 |
48.5 |
20.2 |
OG ・オカミドリ |
26.6 |
790 |
98.0 |
52.3 |
19.6 |
||
MF ・タミスト |
40.1 |
400 |
74.2 |
65.1 |
18.6 |
||
PR ・フレンド |
74.2 |
403 |
55.3 |
111.8 |
32.4 |
||
平均 |
45.7 |
685 |
80.4 |
69.4 |
22.7 |
||
部分耕 1) |
標準 × 2.0 |
OG ・ケイ |
48.9 |
1,207 |
63.8 |
101.8 |
12.7 |
OG ・オカミドリ |
47.3 |
1,483 |
77.6 |
91.8 |
18.9 |
||
MF ・タミスト |
39.0 |
530 |
75.7 |
71.5 |
27.4 |
||
PR ・フレンド |
76.9 |
730 |
72.5 |
99.6 |
6.9 |
||
平均 |
53.0 |
988 |
72.4 |
91.2 |
16.5 |
||
プラウ 2) |
標準 |
OG ・ケイ |
77.2 |
937 |
62.9 |
231.6 |
17.8 |
OG ・オカミドリ |
72.7 |
1,000 |
68.1 |
182.9 |
29.8 |
||
MF ・タミスト |
81.8 |
403 |
54.9 |
168.3 |
20.4 |
||
PR ・フレンド |
97.8 |
433 |
67.6 |
438.2 |
2.6 |
||
平均 |
82.4 |
693 |
63.4 |
255.3 |
17.7 |
1)部分耕試作2号機を用いた播種床、
2)プラウ等を用いた慣行の播種床
3)8月16日
4)10月8日、草量は耕法部内の播種牧草のみ、雑草率は全草量中の再生牧草および広葉雑草の割合