農業研究本部へ

酪農試験場

時の話題:2号の2

根釧農試 研究通信  第2号

1993年3月発行)

**時の話題**

2.イギリスにおける省力的酪農経営

酪農第二科

イギリスにおける省力的酪農技術調査のため、1993年1月30日~2月13日まで15日間の調査を行った。イギリスの平均経産牛頭数は74頭と多く、1頭当たりの労働時間も北海道の1/3である。これは1970年代には既にフリーストール牛舎を導入し、放牧およびサイレージ主体飼養による低コスト化と省力化をめざしてきたことによる。今回はその飼養管理上の特徴を中心に述べてみたい。

(1)生産者乳価は現在約32円であり、1984年よりクオータ制度が導入され生産調整がなされている。しかし、クオータ枠は農家間てl年契約て売買されている。

(2)酪農家の平均経営面積は89haで、草地64ha、穀物20ha、その他5haと利用され、肉牛は79%、穀物は44%、繁殖羊は40%の農家で複合経営が営まれている。

(3)牛舎は1970年までスタンチョン牛舎が主だったが、その後雇用労働費の上昇等から、フリーストール牛舎に移行している。また、麦稈を安く入手できる農家では、ルーズバーン牛舎も利用されている。敷料は麦稈が多く、ベットメイキングはストローチェンバーで裁断しながらl日2回行われる。

(4)経産牛1頭当たりの年間乳量は5887kg、濃厚飼料給与量は1459kgである(1988/9)。秋に集中分娩させることが多く、乳量の多い舎飼期は牧草サイレージに、1部とうもろこしサイレージが給与され、濃厚飼料はパーラー内て併給される。以前は搾乳牛に乾草が給与されていたが、現在ではほとんど給与されていない。乳量が少なくなる放牧期は、放牧草が主体で濃厚飼料はほとんど給与されない。放牧草が不足する時期にはロールバックサイレージ等が併給される。イギリスでは自給飼料の生産コストが、購入飼料よりかなり安いことから、クオーター制度のもとでは購入飼料を抑え、良質粗飼料の生産によるコストの低減が図られている。

(5)牧草サイレージの貯蔵は、主にバンカーサイロが利用され、給与はセルフフィーディングあるいはブロックカッターにより切り出し給与されている。タワーサイロは1970年代に紹介されたが、コストが高い上に機械の故障も多く、なおかつ予乾が必要であるとの理由から採用されなかった。

(6)草種は放牧を中心に考えられ、ペレニアルライグラス単播草地が多くマメ科は少ない。放牧方式はセットストッキングといわれる伝統的な大牧区輪換放牧か、1~3日で1牧区となるように牧区を区切り輪換放牧するパドック放牧が主であり、ニュージーランドでみられるストリップ放牧は少ない。

(7)施肥は窒素300kg/haを6週間隔で3~4回に分け施用される。リンとカリは主に草地への糞尿還元から供給される。窒素は安価なので生産性向上のため多量に利用されてきたが、環境汚染問題から窒素施用量を規制する方向にある。また、マメ科の利用も奨められているが、維持がむずかしいとのことである。

(8)とうもろこしサイレージの作付けは、イングランドでは奨励されている。播種から収穫までコントラクターに依託され、牧草サイレージより生産コストが安い。栄養価が高いばかりではなく、糞尿処理の面からも有用であるとの認識が広まりつつある。

(9)糞尿貯留方法には、堆肥盤、ラグーン、沈澱槽、侵出壁およびスラリータンク等があり農家によりさまざまであるが、コストおよび土地条件により選択されている。例えば、粘土質ならラグーンでもよいが、砂土ならラグーンの下を固めなければならない。また、土地が狭いところではスラリータンクが利用されるであろうし、河川や牛舎の位置によっても変わる。いずれにしても河川局の許可が必要であり、違反すると5万ポンドの罰金が科せられ、環境汚染にはきびしい。

このようにイギリス酪農は長い歴史の中で紹介されたさまざまな飼養技術の中から独自の技術体系を選択し、今日の国際競争力をもつ産業へと発展させてきた。これまでの発展過程では農家、普及所および研究機関の連携がきわめてスムーズであったと指摘されており、今後、北海道でも地域および農家に適合した低コストで省力的な飼養管理体系を関係機関が協力して模索していく必要がある。