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酪農試験場

時の話題:2号の3

根釧農試 研究通信  第2号

1993年3月発行)

**時の話題**

3.国際草地学会に出席して

l月29日から2月24日までの間、ニュージーランドおよびオーストラリアで開催された、第17回国際草地学会に出席しました。

<ニュージーランドの概要>

①国土面積は26万k㎡と日本の7割程度(北海道の面積を除いた程度)。②人口は330万人(北海道より少ない)。③人口のうちマオリ族が10%程度。④性格は非常に明るい。⑤気象条件は全般に温暖で、冬も雪が降らない地域が多い。降水量は一部の地域を除いて1000mm前後と少ない。⑥

車は日本車が圧倒的に多く、どの車もかなりの速度で走る。⑦風景は根釧地域と似ていて、草地が圧倒的に多く、樹木が少ない。

<ニュージーランドの農業の概要>

①農地面積は漸減しているが、農家戸数は漸増の状況にある。②一戸当農地面積は210haで北海道の約16倍。③乳牛340万頭、羊5780万頭、肉牛460万頭を飼養している。④酪農は放牧主体で乳を搾っている。⑤酪農家の施設は極めて簡素。牛舎やタワーサイロはほとんど目にすることができなかった。⑥放牧地ではペレニアルライグラス等の人工草地から、やちぼうずのようなタソックと呼ばれる自然草地まであるものは何でも使っていた。⑦リンゴやぶどうなどの果樹生産が次第に伸びている。⑧NZの農協は店舗を都市の真ん中に構えており、力の凄さを感じる。⑨アルファルファなどの牧草にも潅漑を行っていて、降水量が制限要因となっている。

プレ・コングレスツア-(

131日~27日)

「オークランド→ロトルア→クィーンズタウン→マウントクック→クライストチャーチ→ウェリントン→パーマストンノース」

NZの観光季節とあいまったためか、どこの観光地に行っても日本人が多い。サマータイムを導入しているため、夜の9時でも外は明るい。ロトルアは温泉があり、日本の観光地を思わせる。スポーツは若者向けのクリケットと老人達向けのゲートボールに似たローン・ボーリングが盛んで、白のポロセーターとスラックスに身を包み気品を感じさせる。国内線の飛行機はB‐737ばかりで小さいが、たとえ30~40分のフライトでも機内食が必ず出てきて驚く。ミルフォードサウンドはフィヨルド地形で風光明媚。また、山々は夏でも雪を抱き絶景。小型機による観光は稜線を縫って飛び、頻繁にはまるエアポケットのため思わず手に汗握るスリル満点(?)の飛行。マウントクック周辺の湖は氷河が削る鉱山物のため、湖水が青白く神秘的。乾燥地帯は羊達がlhaに1頭程しか放されておらず、一見すると荒廃地そのもの。クライストチャーチの街は英国風の建物が多く、そこで食べるロブスターはうまい。NZで風邪をひいて病院に行くと、体格に比例するのか、日本の倍近い大きさの錠剤をくれる。ガソリンスタンドでは日本のコンビニエンスストアみたいに何でも売っている。日曜日には”開いてて良かった”の気分になる。NZの人達はヨットハーバーがなくても、トラクターで自作のヨットを海までひいてクルーズに出かける優雅な生活をしている。

オープニングコングレス in マッセイ大学(2/8 ‐12)

参加者:約1000名(約90カ国)、発表課題数:539(キャンセル含む)

「クライストチャーチ→ウェリントン→ パーマストンノース→(マッセイ大学) 」

移動は7日、飛行機およびバスにて

全体の印象:今年のNZは冷夏、しかし、ここは暖かで緑も木も多く、まさに楽園。長丁場の国際学会、そのオープニング。関係者挙げての取り組みに熱気を感ずる。学会期間中、学会事務局との連絡は「レターニュース」。にわか英会話教室の落第生にやさしい配慮。②大学キャンパス:人口約4万人のパーマストンノース市の郊外に広がる。食堂はもとより、本屋、郵便局、銀行そしてちょっとしたバーまである。これに感激(自分だけか?)。学生寮完備。大学周辺に日本のような下宿屋さんみられない。今は夏休み。学生のいない学生寮が学会期間中の宿となる。③セッシ:学会ではいくつかのセッションに別れて発表が行なわれる。少数の招待論文は口頭発表、大部分は成績を掲示板に張りつけるポスターセッション。時間は90分。この間英語の洗礼を受けることになる。脂汗が出る。内容は育種、草地造成・改良、利用と多岐にわたる。④NZのゴルフ:約330万人の人口で約400コースがある。年会費の相場は日本円にして30,000~40,000円、ビジター1回のプレー代が700~1,400円、と日本のゴルファーが聞けば涎(よだれ)が出るかもわからない。地代が安いこともあろうがゴルフコースの管理に羊を使っているためらしい。羊がモーアの変わり。⑤鹿の放牧試験:現在約100万頭が飼養され、将来的に200万頭まで増やす予定でいる。羊などと同様大学等では放牧試験をしていた。気になるのは隔障物の高さ。計ってみると約2m。さほどではない。鹿も数代にわたって飼われているとそれほどぴょんぴょんしなくなるようだ。鹿の生産物は肉と角。角は主に韓国に輸出され、漢方薬に。それを買うのは日本人か。

ミッドコングレス1 in リンカーン大学(2/13-16)

参加者:約200名、発表課題数:143(キャンセル含む)

「パーマストンノース→クライストチャーチ→リンカーン」:移動は12日、飛行機およびバスにて

  • 全体の印象
:結構涼しい。長袖がいる。南十字星をみる。思ったほど大きな星には見えないが感激。すぐ傍に通称「偽十字星」もある。大学はNZの穀倉地帯にある。もちろん水田はないが日本で言えば北見のよう。②リン力一ン大学キャンパス:こじんまりしてはいるが、よく整備されていて綺麗。世界で3番目にできた農業大学。NZの農学研究ではマッセイ大学としのぎを削る。③セッション:今回のIGCでは最も涼しい所でのコングレス。寒地型の課題が中心。④ミッドコングレスツア-:マッケンジーカントリーヘの1泊2日の視察。ここの代表的植生は「Tussock Grassland」。日本語訳はないが、雨の少ない高地に形成された自然草地。日本の「ヤチボウズ」のよう。このような株化草地が延々と続く。320万haもあるとか。牧養力はha当たり羊l頭と低い。褐色の世界。緑のNZというイメージを一変させる強烈な印象であった。

ミッドコングレス2 in ハミルトン(2/15,16)

参加者:319名、発表課題数:176(キャンセル含む)

「パーマストンノース→タウポ→ロトルア→ハミルトン」:観光、農家見学半々でバス移動

全体の印象:荷物の誤送など、手際がいいとはいえない。農家見学での立派なパネルに意気込みを感じる。農家は低コストのために懸命に工夫している。②酪農家:平均より少し規模の大きい酪農家を見学。泌乳量3,000~4,000kg/頭の牛を100haで300頭くらい飼養。1年中放牧。パーラーのみで牛舎は無い。草地への施肥量は少ないが、土壌診断に基づく施肥設計をしっかりやっている。l頭当りの生産性の低さを頭数で補い、施設・資材費を徹底して節約する低コスト。冬の無い立地条件を懸命に活用。③火山灰土壌:タウポの火山灰は1,800年前に降って、P吸1,000以下。根釧のkm‐lfは1,500年前に降ってP吸2,000。タウポの火山灰は流紋岩質で風化が遅いという説明。興味津々。母材、風化年代、気象、土壌の理化学性、牧草の生産性 ・ ・ ・ 根釧と比較したらどんなに面白いだろう。Yellow-brown pumice soil。④セッション:乾燥地、温帯、亜熱帯・熱帯の土壌のセッションに参加。温帯ではPや微量要素、熱帯では有機物分解やN施肥などの発表が多かった。テーマの偏りがそれぞれの気候を反映しており、興味深かった。

クロージングコングレス in ロックハンプトン(2/19~21)

参加者:?名、発表課題数:164(キャンセル含む)

「オークランド→ゴールドコースト→ロックハンプトン」:観光しながらバスと飛行機で移動

全体の印象:暑い。射すような日差し。サングラス必携。牛も草地も北海道とは別の世界。事務処理おおざっぱ、時間にいいかげん。②肉牛農家:Red podozolという真っ赤な土の農家を見学。ルキーナというマメ科の潅木を導入した、野草地に近い草地。肥料は全くやらない。ここは、粗放管理による低コストと言って良い。③セッション:熱帯・亜熱帯の草地、Silvipastral systemのセッションに参加。後者は、植林などで日陰になったときの牧草生育についてのセッション。④観光:最終日(2/21)は、最後のお祭りが多いとみて、欠席。Great Keppel島という島を観光に行く。迎えに来るはずのバスが30分も遅れたり、切符が間違って予約されていたり、乗れる筈の船に乗れなくなりそうになったり、この国の国民性をみる思いがした。スリリングで楽しかった。